気候変動やカーボンニュートラルへ向けた動きが世界中で加速しています。日本でも、2020 年 10 月に政府が 2050 年までに温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにする「2050年カーボンニュートラル宣言」を行いました。

また、サプライチェーン全体における温室効果ガスの排出量 (サプライチェーン排出量) の算定や削減、情報開示を求められる流れが世界的に形成されており、国内の企業は、自社だけでなく、他社を含めたサプライチェーン全体を対象とした環境対策を求められています。

ここでは、サプライチェーン排出量の中でも、 ※ に含まれる 「輸送・配送」の可視化や業務の効率化による CO2 排出量削減に貢献する GIS の活用法をご紹介します。
Scope3 はサプライチェーン排出量の区分の一つで、Scope1 (事業者自らによる温室効果ガスの直接排出) および Scope2 (他社から供給された電気・熱・蒸気の仕様に伴う間接排出) 以外の間接排出を、つまり 「企業活動における上流 (調達) ・下流 (出荷以降) で排出される排出量」を指します。

過去の運行実績の可視化

過去の配送実績や、 配送車両に搭載した GPS トラッカーから取得した位置情報を使用することで、マップ上に過去の運行ルートや実績値を 可視化することができます。実績値を可視化することで輸送距離も把握できるので、輸送によって排出された CO2 の排出量を算出し 可視化することにも繋がります。

また、この結果に加えて、積載量などの配送履歴データを組み合わせて、マップやチャート、テーブルを表示したダッシュボードに可視化することで、過去の配送効率や計画と実績の差といった情報を視認性高く調べることができます 。

下図のダッシュボードでは、車両の過去の運行実績 (積載量・積載率・移動距離/時間など) を可視化しています。全体の結果を俯瞰して確認できるほか、車両名や顧客名でフィルタリングをして、ピンポイントに結果を確認することもできます。

VRP (配車ルート解析) を活用して配送業務を効率化

VRP(配車ルート解析) を行うことで、業務上の制約に基づいた最適な配送ルートをシミュレーションすることができます。車両が運搬できる荷量の最大積載量や、各配送先の受取可能な時間指定などの豊富なパラメーターを設定でき、移動距離の短縮や、車両の削減、すなわち CO2 排出量の削減に寄与することができます。

また、ネットワーク解析に使用する道路ネットワーク データも進化を続けています。たとえば、「ArcGIS Geo Suite 履歴交通量付き道路網」 (以下「本道路網」) は、トヨタ自動車株式会社のコネクティッドカーから得られるカープローブデータをもとに、曜日・時間帯における各道路の混雑パターンを考慮した道路ネットワーク解析を行うことができます。

 

本道路網を使用すると、時間帯、曜日ごとの混雑パターンを考慮して、過去の道路状況を考慮しを行うことができます。

 

下図は、本道路網を使用して配送ルート計画を立てた結果をまとめたものです。運搬する荷量や配送先での滞在時間などの条件は変えずに、配送を行う曜日だけを変えてシミュレーションを行い、車両の稼働時間を比較しています。

シミュレーション時の主な設定は以下の通りです。配達店から出発した車両は、割り当てられた担当エリア内の配送先に対して配送を行います。

  • 配達店:1 か所
  • 配送車両:4 台
  • 担当エリア:4 エリア (下図の色で塗られたエリア)
  • 配送先:全 120 か所


 

結果を見ると、車両 4 台が配送業務を行うのにかかった総稼働時間は以下の通りでした。

  • 月曜日の朝 8 時に配送を開始する場合 (下図の中央): 2,251 分
  • 日曜日の朝 8 時に配送を開始する場合 (下図の右): 2,229 分

 

上記を比較すると、月曜日の方が約 20 分稼働時間が多いことが分かります。これは、平日朝の通勤ラッシュによって発生する混雑状況が反映されているためと考えられ、過去の道路状況を考慮したシミュレーションができていることを表します。

ローコードで構築したアプリで CO2 排出量を簡単シミュレーション

ArcGIS では、位置情報サービスを開発する際の工数や運用コストを低減するノーコード・ローコード ツールを多数提供しています。

以下の動画のアプリケーションは ArcGIS Maps SDK for JavaScript を用いてローコードを で構築したものです。任意の起点から終点まで自動車で移動した際の移動時間・距離を計測し、その結果を元に、従来トンキロ法 ※ に基づいた CO2 排出量を自動で試算することができます。さらに、算出された移動ルートの詳細を確認することもできます。
国が示している省エネ法のガイドラインの内、「物流分野における CO2 排出量に関するガイドライン」にて提唱されている算出方法を使用しています。

このように、ルート解析の機能や API を活用することで、効率的なルート距離の算出、CO2 排出量のシミュレーションなどに活用することが可能です。

また、これらの GIS に備わる機能を応用することで、複数車両一括での CO2 排出量をシミュレーションしたり、航路などのデータを組み合わせて、トラック輸送から船舶での輸送に切り替えるといったモーダルシフトでの CO2 排出量をシミュレーションしたりすることも可能です。

おわりに

本記事では、「配送業務における CO2 排出量削減」というテーマにフォーカスして、GIS の活用法の一例をご紹介しました。

ArcGIS を活用することで、過去の運行実績を可視化したり、より効率的な配送計画を立てたりすることができ、「2024年問題」を解決するためにご利用いただけます。また、輸送を環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用するモーダルシフトへの活用も可能です。ここでは、ローコードで構築できるアプリケーションを構築して、簡単な操作で CO2 排出量を試算することができました。

ArcGIS Network Analyst は、今回ご紹介した活用例以外にも、サプライチェーンの可視化BCP 対策などにも活用できます。弊社サイトで活用法や事例を掲載しておりますので、ぜひご覧ください。

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