全社員がいつでもどこでもワンストップで最新の災害情報や
被災リスクを確認できる Web GIS

ArcGIS プラットフォームの特徴

  • BCP 対策用に全社的に利用できる Web GIS システムを活用
  • 社内外の最新情報を一元管理

    課題

  • 各クライアントにアプリのインストールが必要
  • 情報を閲覧できる PC が限定的

    導入効果

  • オフィス以外の場所からでも情報を閲覧できるようになった
  • ワンストップで必要且つ最新の情報にアクセスできるようになった

概要

日本は、地震、津波、台風、豪雨など、さまざまな自然災害に見舞われやすい環境にある世界有数の災害大国である。鹿島建設では、これら災害に対処するために BCP(事業継続計画)を積極的に推進している。その対応策として、拠点周辺の災害リスクを地図上に可視化し、被災リスクの最小化、事業継続・業務再開の早期化を支援する「災害情報共有システム」を 2019 年(令和元年)から全社員向けに公開している。
このシステムでは、日本全国の拠点の位置とさまざまな災害情報を重ね合わせて表示する「オンラインハザードマップ」と呼ばれる Web マップを提供しており、平時のリスク予測から発災後の対応支援までに役立てることができる。時々刻々と変化する気象情報、地震発生後の震度情報などがリアルタイムに取得・可視化されるので、利用者は拠点に影響を及ぼすリスクをいち早く把握することが可能である。このシステムの導入により、社内ネットワークにアクセスできる環境があれば、社員はいつでもどこでも情報を閲覧できるようになった。また、災害情報が集約、一元化されたことにより、必要な情報を効率的に取得できるようになった。

課題

現在稼働している災害情報共有システムの導入前から、社内で情報を共有するシステムは存在していたが、次のような課題を抱えていた。災害情報を閲覧するアプリとして無償の GIS ビューアーである ArcGIS Explorer Desktop を採用していたが、各社員が自分の PC にインストールしなければならず、導入やメンテナンスに時間を要していた。また、閲覧できるアプリが限定されていたため、オフィス外の現場などで情報を見ることが難しい状況であった。

ArcGIS 活用の経緯

以前から ArcGIS Explorer Desktop をはじめとして、ArcGIS Desktop や ArcGIS Online などの ArcGIS 製品を利用していたが、現システムでは、ArcGIS Enterprise と ArcGIS GeoEvent Server を新たに採用した。ArcGIS Enterprise は、全社的に Web GIS を活用するための GIS プラットフォームとして導入された。これにより、データ管理の一元化とさまざまな Web マップの作成ができ、全社員がシステムを利用できる環境が整った。また、情報のリアルタイム性を重視し、動的にリアルタイム情報を取得して Web サービスとして提供できる ArcGIS GeoEvent Server を併せて導入することにした。この導入により、各拠点の情報の定期的な更新や、災害情報のリアルタイムの可視化が容易にできるようになった。

システムの内容

システム構成
システム構成

災害情報共有システムのサーバーは、AWS(Amazon Web Services)環境に実装されており、ArcGIS Enterprise と ArcGIS GeoEvent Server が、データ取得・更新、データ管理、サービス配信を行っている。クライアントとして、各種 Web マップを表示するビューアーやグラフ、数値を同時に表示するダッシュボードなどがあり、Web ブラウザーで利用することができる。また、クラウド GIS サービスである ArcGIS Online が配信するマップを Web マップの背景地図として利用している。

システムで利用されるデータは、社内で管理する拠点情報(本支店位置、施工中物件位置、竣工物件位置)と社外のハザード情報(主に公開情報)から構成される。拠点情報については、毎朝自動的に情報が更新されるようになっており、マップ上で各拠点をクリックすることでその最新情報を見ることができる。ハザード情報については、雨・風・台風などの気象情報、土砂災害、河川氾濫、地震発生時の地震被害情報などのリアルタイム情報と、事前確認用の情報(想定地震の震度、液状化想定、浸水想定など)がある。
これら情報を Web マップ上で重ね合わせて見ることで、平時は各拠点でどのようなリスクが想定されるのかを、発災後は各拠点の被害状況を一目で把握することが可能になっている。
このようなハザード情報の確認およびリスク把握の目的以外にも、発災時に現場から入る速報の集約・可視化、台風進路予測の表示、拠点から本店への物資搬送ルートの検索、発生時に拠点に参集できる従業員の抽出など、BCP における意思決定を支援するためのさまざまな用途で Web マップが活用されている。

物資搬送ルートの検索については、Python でプログラムを組んでいるが、これ以外の Web マップの作成や機能の実装については、標準機能の組み合わせや設定変更で実現できている。

洪水ハザードマップ
土砂災害ハザードマップ

効果

災害情報共有システムの導入により、全社的に Web GIS を活用できる環境が確立され、全社員がいつでもどこでも拠点に関係する災害情報を把握できるようになった。つまり、オフィスにいなくても社内ネットワークにアクセスできる環境さえあれば、スマートフォンやタブレット端末からでも Web マップを利用することができる。
また、各種情報が集約、一元化されたことも大きなメリットである。現代は情報が氾濫しており、どこに必要な情報があるのかがわかりづらい状況であるが、このシステムが稼働したことで、ワンストップで必要な情報に簡単にアクセスできるようになった。
さらに、リアルタイムで情報の自動取得・更新ができるようになったことにより、迅速な状況把握と判断ができるようになった。

今後の展望

今後は、SNS 情報をリアルタイムで取得・可視化する機能の追加を計画しており、より迅速な意思決定に役立つことが期待されている。