約一世紀にわたり地域の顧客にガスを供給してきたインフラ企業が ArcGIS を活用。エネルギーの小売自由化時代に付加価値をつけたサービスを顧客に提供

ArcGIS プラットフォームの特徴

  • デスクトップ GIS で作成したマップをクラウド GIS で全社横断的に共有
  • タブレット端末を携帯した営業担当者や技術者の現地での状況確認や情報更新に活用
  • プログラミングなしでシステムを実装

課題

  • 自社の顧客情報の可視化
  • 顧客への新たなサービスの提供

導入効果

  • 効率的な顧客の防災危機管理、自動検針・集中監視装置の設置計画が可能に
  • 全社横断的な情報共有を実現

概要

都市ガス製造工場
都市ガス製造工場

鳥取ガスグループは、1918 年の創業から 90 年余りの長きにわたり、鳥取県内を中心に都市ガスおよび LP ガスを一般家庭や企業等に供給するエネルギー事業者である。同社は、全国でもまれな市民運動により誕生した企業であり、地域の発展に向け地域とのつながりを重視し、今日まで様々な取り組みを重ねてきた。
ここでは、2018 年に創業 100 周年を迎える地元老舗企業が、エネルギーの小売自由化時代を迎え、顧客が安心してガスを利用し続けるための施策として、GIS を活用した顧客の防災危機管理、自動検針・集中監視装置の設置計画などの新たな取り組みについて紹介する。

背景

ArcGIS Onlineのオープニング画面
ArcGIS Onlineのオープニング画面

鳥取ガスグループにおける GIS の有効的活用を模索していた経営企画グループの谷本氏は、自社が保有する情報や新たに作成される主題図などのコンテンツ、外部(公的機関や民間企業等)から入手可能なデータなどを組み合わせることにより、新たな施策を生み出すことができると考えていた。
同社では、以前より導管等の施設管理に GIS を導入していたが、専門性の高いアプリケーションであるため、施設管理以外の目的での利用には幾つかのハードルが存在した。
谷本氏が求めた GIS は、汎用性に優れ、すぐに使うことができ、自らのアイディアで様々な用途に活用できるものであった。
これらのニーズに ArcGIS が合致すると判断し、ArcGIS for Desktop と ArcGIS Online を組織における地理空間情報の共有基盤(プラットフォーム)として導入することとした。

プラットフォームの導入手法

Step1:見える化

鳥取ガスグループでは、インフラ企業として、地域の顧客をもっと身近に感じたいという思いがあった。リストで見る顧客情報からは、ガスの使用量などの数値的な情報は得られるものの地域ごとの顧客の特性など空間的な情報を得ることはできなかった。
そのため、まず ArcGIS for Desktop を用いて自社顧客の住所情報をもとに位置情報を地図上に付加し、ポイントをプロットするジオコーディング作業を行った。

Step2:顧客の防災危機管理

ハザードマップ重ね合わせ画面
ハザードマップ重ね合わせ画面

東日本大震災を機に、顧客のハザード情報を把握、管理することが必要であると考えていた。地図上にプロットした顧客の位置情報上に公的機関が公開するハザードマップを重ねることにより、顧客のハザード情報の見える化を行った。

Step3:自動検針・集中監視装置の設置計画


自動検針装置プロット画面

同社では、LP ガスの自動検針・集中監視システム拡充に向けた装置の設置を進めている。このシステムは、電話回線を通じてガスの保安情報や毎月の検針情報をやり取りし、利用者に安心と安全を提供する仕組みである。地図上にプロットした顧客の位置情報の上に設置済みの自動検針装置の場所を重ね、現状の設置状況の見える化を行った。

Step4:情報共有

ArcGIS for Desktopで作成した地図情報は ArcGIS Online 上に集約され、全社横断的に情報を共有する仕組みが構築された。
特に同社では数多くの職員がタブレット端末を利用していることから、Collector for ArcGIS を活用し、外回りをする営業担当者やメンテナンスを行う技術者などが現地での状況確認や情報の更新に役立てている。

プラットフォームの導入効果

1.顧客の防災危機管理

顧客の位置情報とハザードマップを重ねることで、千代川沿いの幾つかのエリアで氾濫の危険性があることが分かった。
ガスを供給するための埋設管が河川の氾濫で水没した場合、水没する高さごとに顧客数を特定できるようになり、今後の対策に役立てることが可能となった。

2.自動検針装置の設置計画

これまでおおよその顧客数から自動検針装置の設置計画を行ってきたが、地理的要素を用いることで効率的な自動検針装置の普及計画を立てることができた。
また、ArcGIS Online からモバイル端末に設置状況を配信することで、現地での設置計画が可能となり、机上と現場の両側面からの計画立案が実現できた。

3.情報共有

Collector for ArcGIS の操作が比較的容易であるため、特に営業担当者のモバイル端末での利用頻度が増え、営業担当者同士の情報共有が円滑になった。

システム構成図
システム構成図

今後の展望

1.災害時の活用

鳥取ガスグループでは、現在、防災対策として GIS の活用をスタートしているが、今後は災害時の復旧活動にも役立てていきたいと考えている。
GIS はタブレットやスマートフォンなどのモバイル端末と相性が良く、GPS とも連携できることから、災害現場における状況確認や対応記録をモバイル端末から発信するなど、災害対応の迅速化に向けた取り組みが検討されている。

2.営業面での活用

従来のリスト(文字情報)を活用した営業活動では、実際の営業活動開始まで時間がかかってしまうことが多かった。
それに比べ GIS(地図情報)を活用した営業活動では、例えば「赤色に着色された顧客を今週中に訪問する」など、活動予定を視覚的に計画できるため、営業開始までの時間短縮に繋がる。また、営業の進捗や成果も分かりやすくなることから、営業担当者がモチベーションを保ちながら、営業活動が行えるものと期待される。

3.新たな顧客サービスでの活用

顧客の見える化と空間的な基礎情報の構築が実現したため、今後は、この上に有益な情報を加えていくことで、地域の顧客に対する新たなサービスの展開が検討されている。
「ArcGIS for Desktop は特定の職員だけが利用し、多数の職員は ArcGIS Online を利用することで、サポートのリソース軽減に繋がり、GIS 利用のハードルが下がった」と語る谷本氏。
ArcGIS を導入してから約1年、これからも顧客のための施策はまだまだ創造される。