『みんなでつくる、地域のためのモビリティサービス』地域内拠点へのアクセス支援と、誰もが同じ使いやすさで利用できる公共交通

      課題

    • 人々の交通手段の志向の変化に伴う需要への対応
    • 社会的弱者に対するモビリティの向上

      導入効果

    • 地域内交通需要の把握
    • 移動需要の分析と可視化

    概要

    LocaliST株式会社は、国立研究開発法人科学技術振興機構のセンターオブイノベーション(以下、COI)プログラムにおける研究開発成果活用事業として 2018 年(平成 30 年)に起業した。

    同社の代表取締役の有吉氏と取締役の西岡氏は、COI 特任教員を兼任しつつ、事業運営を行っている。事業内容は、モビリティに関するコンサルティングサービスと、GIS を活用したシステム/アプリケーションの開発である。

    同社は、大都市辺縁地域で顕在化する、モビリティ(移動可能性)の悪化が及ぼす地域社会の課題に対して、ArcGIS を活用し実態調査と住民へ情報提供する環境を構築した。

    課題

    地域において高齢者や買い物弱者と呼ばれる住民が直面する課題の一つにフードデザート(食の砂漠)がある。同社はこの社会問題に根幹で共通する一因としてモビリティの悪化や、自家用車への依存が影響していると考えた。持続可能なまちにするため、モビリティ実態を把握し解決のための対策を練る必要があった。モビリティの悪化を解消するために、不採算バス路線の減便・廃止や Uber 型サービスの空間的偏りにも手を打つ必要があった。

    • 大都市辺縁地域で顕在化する持続可能性の危機:高齢化、買物弱者、フードデザート、貧困、社会的疎外
    • 共通する要因の一つ:モビリティ(移動可能性)の悪化、自家用車依存のリスクと代償(いつか来る、車との別れ)
    • 経済原理が生む「Passengers left behind(取り残された移動者:不採算バス路線の減便・廃止、Uber 型サービスの空間的偏り)」
    • ArcGIS 活用の経緯

      COI のビジョンに基づく大学の取り組みを地域社会に知ってもらい、また、産学公民の連携による研究開発と社会実装に向けた実践の継続を進めるためには、企業・自治体・地域が連携して研究開発プロジェクトを展開する必要があった。

      実態と課題を共有するためには、さまざまな情報を可視化して、地域住民参加型のまちづくりを構築すべきと考えている。

      交通機関の混雑状況といった動的な情報と、地域需要といった静的な統計情報を同じ環境で整理・共有できる ArcGIS は最適なソリューションといえる。

      両氏とも学生時代を含め同社発足以前から、ArcGIS を活用して研究活動に従事していた。加えて、一般市民のスマートフォン保有率が爆発的に増加し、人々の生活の中で取得できる位置情報が、ArcGIS のサーバー機能によって集約できるようになり、同社の活動にとってまさに最適な選択であった。また、米国 Esri 社のスタートアッププログラムに採用されたことが、ArcGIS の活用をよりスムーズなものにする大きな要因となった。


      LocaliST株式会社が提供するソリューションと ArcGIS 活用イメージ

      課題解決手法

      ①バス車両内混雑度可視化実証実験の取り組み


      横浜市富岡地区における交通需要

      昨今の新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、交通機関の混雑状況は、利用者にとって大きな懸念事項となる。車イス利用者は、車内が満員状態だと乗車自体を諦めざるをえない状況に陥り、また視覚障碍者においては、状況把握による安全性の確保が損なわれるリスクがある。そこで、大規模集客施設などで用いられる Wi-Fi の位置情報センシング技術を活用した混雑度情報提供技術を水平展開した。移動躊躇層の安全性の向上はもちろん、健常者にとっても密室状態を回避する有効な手段とするべく、研究開発を行った。

      これらの研究成果を基に、京浜急行電鉄(株)が実装を進めている三浦半島観光 MaaS アプリとのデータ連携に向けて、三崎口発の京急バスを中心とする車内混雑度計測・可視化システムの開発に踏み込んだ。今回は ArcGIS Enterprise を用いた Web アプリを公開したが、今後は、ArcGIS REST API などの機能を活用し、他の MaaS アプリとの連携も検討していく。

      ② 交通防災情報統合サイトの運用

      これまで培ってきた研究開発を集約することで、平時はバスロケーションシステム等を活用した交通情報を、災害発生時には避難所の開設状況等の防災情報を閲覧することができる Web サイトを箱根町と共同で開発し、一般公開した。

      さまざまな交通機関の情報を一元化して掲載し、町内を運行するバスのリアルタイムな現在地情報を提供することで、住民や観光客の交通利便性の向上を図った。災害発生時は避難所の開設状況をマップに掲載し、町民だけでなく観光客にも公開することにより、安心・安全な観光地としての PR 効果も期待できる。また、情報提供によるさまざまな公共交通機関の利用促進により移動手段を分散化し、渋滞緩和、コロナ禍での密回避にも貢献している。自治体が発信する安心・安全に関する情報や、地域内に存在する複数の交通事業者の運行情報を、ArcGIS Enterprise に集約し、ArcGIS Online を利用したアプリを公開することで、地域内住民だけでなく、地域を来訪する人にとっても、有益な情報を直感的に取得できる手法を開発した。今後は他地域への展開を予定している。


      京急バスのリアルタイム混雑度可視化

      交通・防災統合情報サイト「はこぼうマップ」

      ③沿道状況センシングシステムの開発

      道路維持管理システムの対地域展開を目的に、横須賀市、(株)モービルアイジャパン、丸紅(株)、ESRIジャパン(株)と連携して、横須賀市が主導している「ヨコスカ×スマートモビリティ・チャレンジ事業」の一環として、車載型エッジ AI を活用した沿道状況センシングシステムの開発に着手した。本取り組みでは、路面状況等の道路資産に関するデータを取得するだけでなく、歩行者や自転車の位置・通行量に関するデータを車載センサーによって連続的に収集・蓄積し、得られるデータと他の既存データを重ね合わせ、道路の通行安全性を多角的に評価した。

      コロナ禍の影響により自家用車への依存傾向が強まる状況下において、道路上での弱者である歩行者と自転車への配慮を強め、より人間中心で安心安全な歩行環境および自転車走行環境の実現に貢献することを目指していきたい。


      ダッシュボード機能による沿道状況の可視化

      また、街路における歩行者の通行量を時系列で分析することにより、感染症流行時における外出抑制策等の効果を検証でき、ホットスポット分析等のリスク評価が可能となった。情報共有の際に、ArcGIS Online の Dashboards アプリや ArcGIS Pro による 3D 可視化機能は、今後一般市民へのオープンデータ化を進める際に有効な手段となる。

      今後の展望


      沿道状況センシングの 3D イメージ

      モビリティ分野において、これまでは計画主導で課題解決を図る傾向があったが、昨今の情報端末によるさまざまなデータの取得により、これまで時間的にも地理的にもおぼろげだった人々の流れを可視化できる可能性を秘めている。ArcGIS Enterprise で情報を集約し一括して可視化させ、ArcGIS Online で公開する流れは、今後あらゆる場面で期待できる。今後も地域に根差した「Local Information」をより充実させるために、ArcGIS の発展に寄与できれば幸いである。