災害対策用地図の作成がわずか数分に!
- 各設備情報のデジタル化
- 災害対策用地図の作成時間の短縮
課題
- 災害対策用地図の作成が数時間からわずか数分に短縮
- データに基づくリスクマネジメントを検討するきっかけに
導入効果
概要
東京電力株式会社は、2016 年(平成 28 年)4 月 1 日にスタートした家庭用電力の小売り全面自由化に対応するため、同年同日にホールディングカンパニー制へ移行し、東京電力ホールディングス株式会社に商号変更した。この移行に伴い、燃料・火力発電事業を「東京電力フュエル&パワー株式会社」に、小売電力事業を「東京電力エナジーパートナー株式会社」に、そして送配電事業を「東京電力パワーグリッド株式会社(以下、東電PG)」に承継した。
東電PGは、首都圏 1 都 7 県および静岡県の富士川以東を供給区域とする約 2,900 万世帯に対し、電力を供給している。その電力品質は世界最高水準を誇り、長きにわたり停電の回数(0.06 回/年)、停電時間(6 分/年)、送電ロス率(4.2%)と世界トップクラスを維持している。その高品質な電力は首都圏の人々の生活を支えている。
5 つの D
昨今、電力事業の大きな環境変化を表すキーワードである「5 つの D」をご存知だろうか。
1. Deregulation(自由化)
2. Decentralization(分散化)
3. Depopulation(人口減少)
4. Decarbonization(脱炭素化)
5. Digitalization(デジタル化)
2016 年(平成 28 年)4 月 1 日にスタートした電力小売自由化により、これまで各地域の電力会社しか販売できなかった家庭向け電気を、消費者自身が販売会社や料金メニューを自由に選択して購入できる様になった(自由化)。
ArcGIS 採用の理由
前述の通り、東電PG では配送電事業を主体としており、電力の安定供給というミッションの元、電柱、鉄塔、変電所といった設備データをはじめ、GIS と親和性の高い多種多様なデータを所有している。しかし、これらのデータの多くは紙で管理されているのが実状であった。
この問題点を解消するべく、東京電力グループのシステム開発を中心に担う株式会社テプコシステムズでは、先行的にデータ利活用およびその有用性の検討を行うために ArcGIS を導入した。
日本はとても災害の多い国である。また日本は国土の中で居住可能な地域が少なく、人口の偏りも大きい。さらに東京は超過密型都市となっており、昼間と夜間の災害にはそれぞれ異なる対策を考える必要がある。さまざまなケースに対応するためには、なるべく詳細かつ、多くの災害想定を行う必要があり、そのためには各種データのデジタル化が必須条件となる。
従来から、東電PG ではエリアごとに災害対策用地図を作成してきた。しかし、各種データがデジタル化されていないため、全て手作業で作成していた。そのため、一枚の地図を作成するのに数時間、エリアによっては数日かけることもあったという。
まず各情報のデジタル化を進め、災害対応に必要な地図を効率的に作成するために、既に多くのユーティリティ企業で活用実績のあった ArcGIS を選択した。
課題解決手法
デジタル化の最初のテーマは「防災」であったため、ArcGIS を用いて災害時の設備リスクの「見える化」を行った。防災を検討する上で、人口分布、洪水の危険箇所や建物危険度などさまざまなデータが必要となり、国土交通省、総務省、東京都都市整備局などで公開されているオープンデータを使用した。その上に東電PGとして所有している電柱や鉄塔、地中設備のデータなどを重ねることで、今まで気づかなかったことが見えてきた。
「災害発生時の復旧迅速化のため、廃材等置き場の候補地分析を行いました。まず変電所をポイントとして ArcGIS 上にプロットし、面積 100m² かつ所有区分を東電で空間検索をしました。その上でボロノイ分割を行い、災害時の廃材をどの変電所に一時的に運搬すると効率的であるか等の想定を行いました。こうしたトポロジカルな問題の解決には、GIS によるアプローチが有効であると考えられます」と大友氏。それ以外にも災害発生時の高圧発電車の配車ルートの選定などにも ArcGIS を活用し、新たな気づきを得ることができた。
効果
「これまでは災害対策用の地図を、毎回、手作業で作成していました。これは本当に大変な作業でした。ArcGIS でデータを重ね合わせて、これまで数時間かけて作成していた地図が数分でできた時は本当に驚きました。ArcGIS を活用すれば、これまでやりたくてもできないと思っていたことの多くができると確信しました」と牧田氏。
今後の展望
「今回の導入は東電PG において、アナログからデジタルへの大きな転換点になると思っています。ただ、まだデジタライゼーションのスタート地点に立っただけですけどね。これからもっとデジタルへの変革を起こし、勘や経験ではなく、データに基づいた判断ができる様にテプコシステムズの立場から支援していきたいと考えています」と大友氏は、最後に自身の熱い思いを語ってくれた。