大規模都市ガス事業者における GIS の先進的活用

    課題

  • 大規模地震発生時にガス供給の状況を顧客に迅速かつ分かりやすく伝える仕組みの構築が必要

    導入効果

  • パソコンやスマートフォンから「復旧見える化システム」にアクセスし、住所検索することで簡単に自宅周辺の復旧状況の確認が可能に
  • 「復旧見える化システム」へのアクセス数はピーク時に 26 万PV/日となり、システムの必要性の高さが明らかに

概要

大阪ガス本社ビル大阪ガス本社ビル

大阪ガスは、近畿地方を中心に約 600 万戸に都市ガスを供給する大規模都市ガス事業者である。
2003 年より、ArcGIS を地図情報のプラットフォームとした組織横断的なシステムの構築がはじまり、現在では、設備管理のほか、建設・工事対応、防災・BCP 対策、緊急保安対応、営業支援など様々な用途で ArcGIS が活用されている。
2018 年 5 月、大阪ガスは、大規模地震発生時にガス供給を停止した地域の顧客へ復旧進捗状況を迅速に伝える仕組み「復旧見える化システム」を ArcGIS で構築したことを発表した。2018 年 6 月 18 日に発生した大阪府北部地震の際には、本システムが稼働し、顧客はパソコンやスマートフォンから自宅周辺のガス復旧状況を色分けされたマップで確認することができた。
ここでは、大阪府北部地震における復旧対応として、大阪ガスが顧客に対し、ガスの復旧進捗情報をインターネット上に公開した事例について紹介する。

課題

大規模地震発生時、都市ガス事業者は二次災害防止を目的として、一時的にガスの供給を停止する場合がある。大阪ガスでは、ガスの供給を停止した地域の顧客に対し、復旧進捗状況についてこれまで以上に迅速かつ分かりやすい情報提供の仕組みの構築を必要としていた。

ArcGIS 活用の経緯

2018 年 5 月、大阪ガスは、大規模地震発生時にガスの供給が停止した地域の顧客に対し、分かりやすくガスの復旧情報を提供するため、「復旧見える化システム」を開発したことを発表した。
「復旧見える化システム」は、ガスの復旧状況ごとに 5 段階(「供給停止により閉栓中」、「道路面のガス管検査中」、「道路面のガス管修理中」、「お客様宅のガス設備検査・開栓実施中」、「開栓・訪問一巡を完了」)に色分けされたマップと、地域ごとにガスの復旧進捗状況などを掲載した一覧リストの 2 種類の検索システムで構成されており、大規模地震発生時のみ緊急用として切り替えられる大阪ガスのホームページトップ画面から利用することができる。
大阪ガスでは、導管等の設備を管理するシステムの GIS エンジンとして ArcGIS を採用している。「復旧見える化システム」の開発にあたっては、幾つかの選択肢があったが、システム連携の容易性を考慮し、ArcGIS により開発することを決定した。また、開発にあたっては、迅速な情報公開を実現するため、クラウド上にサービス(地図情報および属性情報)をアップすることでインターネット公開が可能な「ArcGIS Online」をベースとした。

活用実績

ガス復旧ステップと進捗表示色ガス復旧ステップと進捗表示色

2018 年 6 月 18 日の午前 7 時 58 分、大府北部を震源とする最大震度 6 弱、マグニチュード 6.1 の地震(大阪府北部地震)が発生した。関西地方でこれほど大きな地震が発生したのは、1995 年に発生した阪神・淡路大震災以来のことであった。
大阪ガスは、大阪府北部地震の影響により、高槻市や茨木市など地震動の大きさがあらかじめ定めた基準を超えた地区(約 11 万戸)に対し、ガスの供給を停止した。大阪ガスでは、地震発生直後から情報収集および復旧計画の策定を行い、一日も早い復旧作業に着手するとともに、ガス供給を停止した地域の顧客を対象に、「復旧見える化システム」をインターネット上に公開し、情報提供を行った。開発完了から約 1 ヶ月後、「復旧見える化システム」は初運用されることとなった。
「復旧見える化システム」は、大阪府北部地震発災当日の午後 10 時に大阪ガスのホームページ上に公開された。復旧情報の公開にあたっては、現地で対応した閉開栓作業を報告するシステムから上げられる情報を災害復旧支援システムに一元的に集約し、この情報を基に「復旧見える化システム」上で色分けされた地図を作成した。

復旧見える化システムの画面(イメージ)

効果

「復旧見える化システム」によるガスの復旧進捗状況は、パソコンやスマートフォンから閲覧が可能で、顧客は操作性の高い拡大・縮小機能に加え、住所検索機能により目的の地域の町名を入力することで簡単に自宅周辺の復旧状況を確認することができた。
住民生活に密に関わるライフラインの情報を素早く・正確に・分かりやすく公開する「復旧見える化システム」は、顧客が現状を把握するためにとても重要な役割を果たすシステムであり、発災後の同システムへのアクセス数は、ピーク時で 26 万 PV /日に上り、必要性の高さが改めて明らかになった。

今後の展望

店舗のイメージ開発者のオージス総研 西岡氏

大阪ガスは、社会を支えるエネルギーのプロとして、地震等への災害対応、防災への取り組みを充実させ、より安全で安定した都市ガスの供給を行っていく。