電気自動車の潜在的購入者のプロファイリングをもとに、該当する地域を中心とした設備投資を実施

課題

  • 電気自動車の普及による電力設備への過負荷対策
  • 電力需要増加による停電の回避

導入効果

  • 将来的に電力設備への過負荷が増大すると予想される地域に集中的に投資を実施

概要

概要

ナッシュビル電力サービス(NashvillElectric Service、以下、NES)は、米国テネシー州中部地域に電力を供給する電力会社だ。電気自動車(以下、EV車)である日産リーフの発売を2年後に控えた2010年、将来的なEV車の普及に備え、NESではインフラ設備の強化とその対策について検討を開始した。全てのインフラ設備の強化には莫大な費用がかかるため、EV車の潜在的購入者の居住地域を割出し、該当する地域を中心とした設備投資の実施を目指した。

背景

NESでは、EV車購入者が自宅で充電することによる電力需要への影響について、2010年から分析を始めた。早くから取り組みを始めることで、電線や変圧器など古い設備の更新、電力需要逼迫を想定した設備の補強など、必要な設備投資への優先的な実施が可能となり、電力需要が急激に増加した場合の停電回避につながるからだ。

電気回路ネットワークの整備を行うNES配電計画グループでは、暑い日の午後4時から5時頃に人々が帰宅し、EV車の充電とエアコンの利用を同時に行った場合の電力需要に耐えうる設備強化が必要であると分析した。また、日産リーフはフル充電に8時間を要することから、大多数のドライバーが家で充電すると予測された。

NESの配電計画部 設計工学主席副エンジニアのキース・ブラウン氏とシニアエンジニアのカーラ・ネルソン氏は、事前の検討を踏まえ、EV車を購入する可能性の高い人物をプロファイリングし、リーフの潜在購入者の居住地域をクラスタ表示した「EV車導入予測マップ」の作成を決定した。ArcGISテクノロジを活用し、調査データと電力施設のロケーションを関連付けた分析が開始された。

解析手法

解析手法

「EV車導入予測マップ」作成にあたり、EV車購入者のプロファイリングから始めた。 J.D.パワー・アンド・アソシエイツや、スカボロ・リサーチが発行しているハイブリット車オーナーに関するマーケティングプロファイルの分析を行い、その結果、EV車購入者のプロファイルは、ハイブリット車購入者のそれと殆ど相違ないと推測された。「ハイブリット車の所有者は、その特徴として学歴が高く、世帯収入が多いことがわかった」とブラウン氏は言う。

2007年のJ.D.パワー・アンド・アソシエイツの調査によると、ハイブリット車購入者は、新車購入者の平均年齢より高く、45歳から50歳の年齢層が主である。走行距離も平均の半分で、所有者には女性が多い。成人11万人を対象にスカボロ・リサーチが行った調査では、平均に比べ2倍以上の人々が自らを民主党支持者であると回答していた。ブラウン氏は、この調査情報から分析に必要な要因をリストにまとめ米国センサス データを使用し、ArcGISで分析を行った。

まず、Microsoft AccessとExcelを使い、計算式とカスタム機能の構築を図った。リーフ購入者の居住地域として最も可能性の高いセンサス ブロックを導き出すデータを点数化するためだ。ブラウン氏が選んだ主な要因は、年齢、性別、人口密度、学歴、世帯収入、通勤時間、支持政党である。各要因は、1から100まで別々にスコア化され、そのスコアを合計し、1から100の間の値になるよう調整された。各要因には、必要に応じて重み付けが行われた。例えば、年齢要素が学歴よりも重要ならば、合計値にさらに重要性を持たせるといった具合だ。

分析に支持政党を加えたのは、過去10年間の選挙結果データと投票区データのシェープファイルを保有していたからだ。「センサス ブロックごとにマップと得票数データを保管していた。ArcGISの空間分析識別ツールを使い投票区を重ね合わせ、電力を供給する7郡2万件の各センサスブロックに投票区の得票数の移行をおこなった」とブラウン氏は説明する。

移行が完了すると、Microsoft Accessのデータベースファイルに格納し、郡ごとに分け、NESが供給する7郡についてのAccessとExcelを使った分析が完了した。その後、ArcGISの空間分析ツールとNESサービス提供エリアを表したシェープファイルを使い、NESが電力を供給する範囲のセンサスブロックだけを含む、新たなシェープファイルを作成した。

成果

成果
マップはテネシー州を表したもので、白い線で囲んである
範囲内がNESの電力供給エリア。既にEV車を所有している
住所は、緑の点で表わしている

初めに作成したマップでは、EV車に強い関心を持つ人が多いセンサスブロックが特定された。しかし、電力システムに影響を及す程ではなかったため、各センサスブロックのスコアの合計に人口密度スコアを掛けた値を算出し、再度マップを作成した。EV車導入クラスタによる実際の電力ネットワーク負荷の増加を正確に予測したマップが表示された。さらに、ガレージを持たない住民は充電器の設置場所の確保が難しいことから、EV車購入の可能性は低いと推測された。そこで、不動産区画のデータを使用し、ガレージの有無を色別に表示したマップを追加した。ガレージの有無を追加したことで、さらに予測しやすいマップができた。

「EV 車導入予測マップ」の準備ができると、電力需要が増加する可能性のある地域と、重点的に電力ネットワークのメンテナンスと更新作業を行う必要がある箇所の情報を、社内のすべての部署と共有した。「調査から導き出された重要な要因は、学歴と世帯収入だ。南部のサービスエリアが最も高い見込み値を示している」とブラウン氏は説明する。スカボロ・リサーチの調査を基に、政治的要素を追加してみると、別の地区も該当することがわかった。

まとめ

ArcGISでの分析結果を受け、家庭向けの電力供給用の小規模な配電変圧器への過負荷の回避を目的に、低電圧(4,100ボルト)ラインへの変換と、1960年代以前に建設された設備を高配電電圧設備に交換することを決定した。日産リーフは、充電時間が長めの110ボルト レベル1の充電器を使用する。しかし、多くの人は充電速度の速い220ボルト レベル2の充電器を主に利用すると予測されるからだ。

「新設される充電ステーションを予測マップに追加したとき、EV車の潜在的所有者が集まる地域に集中していることが判明した」とブラウン氏は言う。今では、サービス提供エリア内で、新たに EV車とプラグインハイブリッド車の所有者登録を行った住所情報を州から提供してもらい、マップの更新を続けている。このような地道な作業により、先を見越した対策が可能となるのだ。