モバイル空間統計の普及を目指して

課題

  • モバイル空間統計を用いた分析、可視化、 シミュレーション

導入効果

  • Esri Business Analystを利用することでモバイル空間統計の特長を最大限に引き出し、新たな価値を創造することができた

概要

株式会社ドコモ・インサイトマーケティング(以下、「DIM」)は、株式会社NTTドコモ(以下、「NTTドコモ」)が保有する6,000万の携帯電話を繋ぐための運用データを元に作成する、「モバイル空間統計」という画期的な統計データを活用したマーケティングサービスを2013年10月より提供している。

モバイル空間統計は、携帯電話がアクセスしている基地局データを元にして作成される人口の統計情報であり、24時間365日、日本全国を500mメッシュ単位(東京23区・名古屋市・大阪市の一部では250mメッシュ単位)で提供している。モバイル空間統計があれば、人口分布や性別年代別人口の時間変動をはじめ、どこからどれだけの人が来ているかなどを把握することができる。

モバイル空間統計とは

人口統計データと聞くと5年に1度行われる国勢調査を思い浮かべる方も多いだろう。国勢調査は全国民に対して行われる調査だが、刻々と変化していく人口分布や、昼間人口の集計までは難しい。また都市開発などにより、5年の間に人口分布は大きく変わってしまう。モバイル空間統計は、携帯電話の基地局データを個人が識別できないように匿名化し、NTTドコモの携帯電話の普及率を加味して集計することで、NTTドコモのお客様以外の方々も含む人口を推計し統計データとして提供している。

近年、電車の中や山奥でも利用できるようになった携帯電話は私達の生活に欠かせないものとなった。そして現在、NTTドコモは「いつでもどこでも、つながっている」という携帯電話の強みからモバイル空間統計という新たな価値を生み出した。今や携帯電話は誰かとコミュニュケーションを取ったり、情報を収集したり、個人的に利用するだけではない。24時間365日、日本全国の人々のリアルな動きを推計できるモバイル空間統計の可能性は無限大に広がっているのである。

モバイル空間統計の作成手順 (NTTドコモWebサイト)

導入経緯

2010年より、NTTドコモでは、社会貢献を通じてモバイル空間統計の技術的検証や利用可能性検証を行ってきた。例えば、災害時の帰宅困難者数の推計や徒歩帰宅シミュレーションである。埼玉県内では地震により全ての公共交通機関が使えなくなった場合を想定し、下記の発生する帰宅困難者数を推計した。

  1. 埼玉県内で発生する帰宅困難者数
  2. 県内主要5駅の帰宅困難者数
  3. 埼玉県外にいる埼玉県民

これらの人数を推計するために、平日12時時点のモバイル空間統計を取得し、食料・飲料水などの備蓄場所と必要量、徒歩帰宅ルートの整備、う回路の設定や一時滞在施設の必要数を公開した。(埼玉県公式サイトより

導入経緯
図1:埼玉県 帰宅困難者調査

その他にもまちづくりや防災計画など様々な公共分野においてもモバイル統計の可能性を確認できた。これらの成果を踏まえ、モバイルリサーチ&マーケティング支援事業会社として2012年4月より事業を開始していたDIMにおいて、新しいサービスとしてモバイル空間統計を用いたマーケティングサービスを開始した。サービス開始にあたり、DIMでは、お客様にモバイル空間統計をよりご活用いただくために、分析結果を直感的に把握できるような表現手法が必要となった。そこで、モバイル空間統計のような膨大なデータを最

大限に表現できるツールとしてEsri Business Analystを活用した。

都内14時 平日と休日の人口比較
図2:都内14時 平日と休日の人口比較

図2は都内の平日と休日の14時の人口分布を表したものだ。平日のほうが全体的に都内にいる人口が多く、東京駅周辺や新宿に人が多いことがひと目でわかる。休日になると、東京駅周辺や新宿にいる人は激減し、お台場や都心から少し離れたところの人口が増加する。このような統計データを可視化することで、平日と休日の人の動きを直感的に読み取ることが可能になった。

 

商圏分析への利用

モバイル空間統計の活用として最も期待されている用途の一つが商圏分析だろう。ある商業施設では、全体の来客数などは入り口のセンサーなどを利用して把握できるという。しかしどの年齢層がどこから、どの時間帯にそこに訪れたかまでは把握できない。モバイル空間統計では、来場者の客層まで把握することができ、出店するエリアの傾向やターゲットを定めることができる。また、チラシなどを配る際に、どこのエリアをターゲットにすればよいかの判断材料に使うことができる。

商業施設 商圏比較
図3:商業施設 商圏比較

図3は大阪のある2つの商業施設周辺の居住地別人口を基に、それぞれの商圏の違いを表した図である。あるエリアではAの施設に近くてもBを利用する割合が多く、逆にBに近くてもAの利用の割合が多い場合もある。チラシを配るなど宣伝活動を行う場合、距離だけでは予測できない指標をモバイル空間統計によって得ることができ、事実に基づいたビジネスポテンシャルを把握できる。2015年1月より訪日外国人のモバイル空間統計のリリースを予定している。東京オリンピックに向けて外国人の観光客や訪問者も更に増えていくことが予想される。民間企業に対しても、そして公共機関に対してもモバイル空間統計の利用価値は高まるだろう。

まとめ

「モバイル空間統計が世の中に広まることが私達の一番の目標なのです」とエリアマーケティング部の鈴木氏と小田原氏は述べた。「将来的には企業のPDCAサイクルの中で継続的に活用していただけるとうれしいです。計画から効果測定そしてその次のプロジェクトでも活用いただけるようなものになって欲しいです。民間企業だけではなく、公共分野においても、まちづくりや地域の活性化に利用できる何らかの指標になってもらえると、我々の基礎にある社会貢献に繋がるのではないかと考えています」と二人は語ってくれた。これからもモバイル空間統計の更なる実用化・普及に注目したい。