営業エリア拡大に向けて模索する中で GIS と出会う

    課題

  • 自社商圏の市場分析
  • 営業エリア拡大のための新規方策の策定

    導入効果

  • 市場分析作業の簡易化
  • 顧客の分布や競合情報の可視化
  • 今後の顧客サービスの充実

概要

株式会社福岡工務店は福岡市を拠点とする木造注文住宅専門会社である。『「おっ!」をつくる』を企業理念としている。「おっ!」とは驚いた瞬間の感覚のことで、小さな「驚き」を積み重ねることで、大きな「感動」が生まれる、という事を意味している。
商圏である福岡都市圏の市場分析を行うため、当初は手作業で分析を始めたが、非常に手間がかかるため解決策を探してたどりついたのが GIS だった。ArcGIS Online の標準機能を使い、自社データと統計データを重ね合わせ市場分析や顧客の分布の分析、競合分析などを行った。今後は県外への拡大路線を視野に、マーケティング活動への利用や、新規データの採用による顧客へのサービスの充実を図っていく予定である。

課題

福岡工務店 薬院オフィス

福岡工務店は福岡都市圏を営業エリアとして木造注文住宅の設計・施工と不動産の取り扱いを行う会社である。福岡に住む方のために家を作りたいという強いこだわりがあるため営業エリアを福岡都市圏と限定しており、エリア外からの問い合わせは断っていた。福岡都市圏は、拠点オフィスがある南区から高速道路を車で 1 時間の範囲とほぼ一致しており、それは大工が毎日通える距離という意味もあった。福岡工務店の施工・技術レベルは高い評価を受けており、国土交通省住宅履歴情報登録機関(株)ホームリサーチから全国で唯一の 3 つ星(★★★)プラス 1 認定評価されている。

福岡工務店 薬院オフィス
福岡工務店 薬院オフィス

そのような地場に根付いた工務店であるが、今後は拡大路線も考える必要が出てきている。昨今、工務店でも後継者問題は深刻で、全国的に廃業や M&A を行うケースが増加している。事業承継問題を解決するために、工務店同士のネットワークを広げ、地元の代表となる工務店を増やし繋がっていくという動きが広がっている。
県外へと商圏を広げていく場合、福岡以外は土地勘が無い。それを解決するために新しい方策が必要だった。

ArcGIS 活用の経緯

拡大路線の前に、まずは現状の正確な把握が必要だった。福岡都市圏の市場分析である。町字ブロックレベルでの世帯数に対する顧客や問い合わせの比率の計算を行おうとした。営業活動ではチラシなどの紙媒体を使うこともあるため、顧客の住所情報は保有していたが、エリアごとの比率は分かっていなかった。

最初はすべて Excel で計算し、白地図に手書きで表現しようとした。しかし、手作業は非常に手間がかかった。そこで Web 検索サイトで解決策を探っている中で GIS というものがあることを知ったのだ。しかし、まだ社内で GIS を知る人は少なく、いきなり購入は難しいと感じたため、まずは無料の GIS ソフトを入手し、できそうなことから始めてみた。この時、有馬氏は「GIS には統計データが既にあるので、これは物凄く便利だ」と思ったという。 しかし使い続けてみると、かゆいところに手が届かない。例えば保有する顧客データの数が多く、一度で分析が行えなかった。無料ソフトの限界を感じたという。ただ、やりたいこと、できることはその時点で分かってきた。

そこで有償のソフトの検討に入った。
「決め手は機能とコストです」と有馬氏は語る。ArcGIS Online のさまざまな分析機能とその価格は非常に魅力的であった。また管理部門と実務部門が別の場所にあるため、インストール型のソフトでは無く、場所にとらわれないクラウドサービスが必要で、ArcGIS Online は最適であった。

課題解決手法と効果

最初は GIS 独特の使い方に若干の戸惑いはあったという。データのアップロードの方法や、地図の表示方法、データの重ね合わせ方法などである。ESRI ジャパンの福岡オフィスのアドバイスを受けながら ArcGIS Online の基本分析機能を使い以下のようなマップを作成した。

・市場分析マップ
・顧客の分布マップ
・競合情報マップ

分析結果は仮説とは少し異なっていたという。例えばオフィスに近くなるほど問い合わせ数は増加する、という感覚があったそうだが、実際は各エリアから均等に問い合わせが来ていたそうだ。また商圏の分析を行ってみると、出店効果の高そうな場所には、ピンポイントで競合他社が既に出店しているということもあったそうだ。
ArcGIS Online の標準分析機能だけでも、知りたいと思っていたこと、やりたかった事は一通り分析することはできたという。

福岡工務店 薬院オフィス

今後の展望

今後は福岡都市圏を超えての営業方策の検討に GIS を利用していくという。今までのやり方が知見の無いエリアでも効果を発揮するとは限らない。他県での展開には Web サイトによる宣伝だけでなく、ターゲティングを行いながら紙媒体の利用なども検討しており、さらにリアルな店舗の出店となれば地域の選定はシビアになってくる。GIS は必須であると考えているそうだ。
また、データの増強も考慮に入れている。例えば不動産購入を考えている人で小学校区が決め手となる人が多いため学区データの導入や、また土地の相場のデータがあれば、希望の予算と地区に関する的確な情報提供ができる。住宅販売で最も苦労するのは土地探しなのだそうだ。顧客の希望する条件を満たす土地を適価で見つけるのは簡単なことではない。視覚化情報として提供することで顧客の理解も得られやすくなると考えている。

また、ハザードマップや災害情報の提供も接客のツールとして使えると考えている。「家は一生に一度の買い物です。だからみなさん慎重になります。決め手は信頼の積み重ねです。誠実に情報を提供するのは自社の強みにもなります。土地探しも含めて、家づくりをもっとスマートにしたい、そう思っています」と有馬氏は語った。