【はじめに】

近年、物流を取り巻く環境は、ドライバー不足や人口減少、多頻度・小ロット化の課題もあり、より省力的・効率的な物流施策を求められています。また労働時間に上限規制が課されることで生じる諸問題「2024年問題」もあり物流業界を取り巻く環境が大きく変わろうとしています。
あるメーカー(荷主 A)では、地方(千葉県房総半島地域)への輸送において、現状の配送実績を分析し、より物流の効率化を図るため、「発荷主同士のエリア共同配送」の実施を検討しています。共同配送に取り組むことで、どの程度の効果があるかをシミュレーションしたいと考えています。

【1. 荷主 A の拠点と配達先】

荷主 A は地方(千葉県房総半島地域)への配達において、出荷拠点(赤建物)から、中継拠点(青建物)まで拠点間で輸送し、その後、各配達先()へエリア配送を行っております。

荷主A
出荷拠点(1 地点)・中継拠点(1 地点)・各配達先(33 地点)

荷主A

届け先は全部で 33 地点あり、配達指定時間の件数は以下の通りです。

配達指定時間の件数

 

【2. 荷主 A の配送実績を分析】

中継拠点から配送先(33 地点)への配送ルート
(※数字はそれぞれの配送ルートにおける配達する順番を示しています。)

中継拠点から配送先へのルート

の拡大図

中継拠点から配送先へのルート2

荷主 A のある日の配送実績をもとに「ArcGIS Network Analyst」で分析した結果、以下のような結果になりました。

結果
  • トラック車両:7 台
  • 積載率(平均):49.8%
  • トラック走行距離(平均):184km

中継地点の立地もありますが、配達先の密度が低く、着指定時間も午前に偏りがあるため、回りきるためには多くの車両を使う必要があります。また、積載率も低い状況にあります。

 

【3. パートナー(荷主 B)の拠点と配達店】

共同配送のパートナーである荷主Bの拠点は、出荷拠点 ×1、中継拠点 ×3、配達先は 67 件あります。
出荷拠点~各中継地点は、横持輸送をし、そのあとはエリア配送を行っています。

荷主 B
出荷拠点(1 地点)・中継拠点(3 地点)・配達先(67 地点)

荷主B

届け先の配達指定時間は以下の通りです。

配達指定時間の件数

 

【4. 荷主 B の配送実績を分析】

中継拠点(3 地点)から配達先への配送ルート

荷主B

荷主 B のある日の配送実績を、荷主 A 同様に分析した結果、以下のような結果になりました。

結果
  • トラック車両:8 台
  • 積載(平均):67.4%
  • トラック走行距離(平均):138km

荷主 A と比較すると、中継地点の立地や、配達先も多いため、非効率となっている点は少ない様です。

 

【5. 共同配送のパートナー選び】

ここまで荷主 A、荷主 B の配送実績を分析しました。
さて、共同配送のパートナーを検討する際には、相性の良い相手を探すことが重要です。
その主要な条件として、

1. 届け先が同じ企業(近隣性)
2. 出荷量の波動パターンが逆の企業(波動の相殺)

今回の場合は、荷主 A の配達先(33 地点)は、荷主 B(67 地点)の配達先に全て網羅されているため、「1.届け先が同じ企業(近隣性)」の条件をクリアしているといえます。

が一致する配達先

★が一致する配達先

拡大図

拡大図

 

【6. 共同配送の構成を検討】

荷主 A と荷主 B でエリア共同配送をシミュレーションするにあたり、以下の拠点構成で検討しました。双方の既存拠点を活用し、拠点間は横持輸送(赤線)とし、各中継点を介して、エリア配送(青線)を行う構成です。

共同配送の構成図

共同配送の構成図

 

【7. 共同配送でのシミュレーション結果】

共同配送シミュレーション図

共同配送でのシミュレーション

上述の構成を前提として、エリア共同配送をシミュレーションした結果、以下のような結果になりました。

結果
  • トラック車両:12 台
  • 積載率(平均):68.2%
  • トラック走行距離(平均):137km

 

【8. 車両サイズを変更してシミュレーション】

車両サイズを変えた場合

車両サイズを変更してシミュレーション

前述までの内容は、車両サイズをすべて「2 トン車」としてシミュレーションしましたが、一部のトラックを「4 トン車」に変えてシミュレーションした結果が以下となります。

結果
  • トラック車両:8 台
  • 積載率(平均):80.2%
  • トラック走行距離(平均):156km

車両数、積載率ともに大幅に改善された結果となりました。仮に、日あたりの庸車費用を計算すると以下になります。

結果

ただし、車両数を減らしたため、ドライバーの稼働時間が平均で 70 分以上増加してしまいました。その他にも課題があります。

 

【9. 着時刻指定緩和の必要性】

仮に傭車する車両サイズの変更や、車両数を減らしてシミュレーションした場合、配達先の指定時刻に間に合わない箇所が存在しています。

着時刻指定緩和の必要性

共同配送において、発荷主や配送事業者だけではなく、配達先側の協力も得られればより効率的な物流の実現が可能となるでしょう。

 

【10. 荷主主導の共同配送実現へ】

いかがでしたでしょうか。
実際には、配送シミュレーションだけでなく、「届け先情報の統一」や、「輸送品質の統一」、「費用の按分方法」など様々に検討・検証すべきことがあるかと思います。
多くのハードルはありますが、近年、長距離の幹線輸送において、同業種・異業種間での荷主主導で共同配送に取り組む事例が多くなってきております。
環境面の配慮や、物流の課題解決の方法として「フィジカルインターネット」が注目されています。シェアリングにより物流リソースの稼働率を向上させ、より少ない車両数で運ぶことでカーボンニュートラル・脱炭素、持続可能な社会の実現を目指していく必要があるのではないでしょうか。
最後になりますが、「ArcGIS Network Analyst」を活用することで、様々な条件に基づいて、配送シミュレーションを行うことが可能となります。共同配送の例だけではなく、自社の配車ルート計画や、ルート解析などのシーンでも多く利用されています。また、自然災害に対するリスク分析、モニタリングにも活用できます。弊社サイトで事例など掲載しておりますので、是非ご参照ください。

 

【関連リンク】