竹中工務店の革命的システム「GISTA」。快適性と環境を見据え、位置情報と生体情報で未来のオフィス空間への扉を開く。

ArcGIS を基盤とした GIS プラットフォームの特徴

  • 位置情報と生体情報を統合して屋内環境の可視化、分析が可能に
  • 屋内環境の空間的な快適性があらゆるデバイスから閲覧可能に

      課題

    • 空間的なデータの取得頻度のばらつき
    • アンケート回答者の主観的な評価による結果の信頼性の低下

      導入効果

    • リアルタイムの情報収集と可視化
    • 客観的なデータに基づく空間評価が可能に

    概要


    ISTAで用いるヘルスデバイスと
    スマートフォンアプリ

    竹中工務店は日本の大手総合建設会社で、国内外の多様な建築プロジェクトや施設開発に従事している。同社の設計本部アドバンストデザイン部では、最新技術を駆使して設計支援を行っており、その一つとして環境を考慮したコンサルティング事業を行っている。

    建物を設計する際には、外観もさることながら、屋内環境の快適性も重要である。その快適性を評価する際、これまではそのオフィス空間で働く人に対してアンケート調査を行っていたが、アンケート回答者の主観的な評価になってしまうことや空間的なデータの取得頻度にばらつきがあることが課題であり、より客観的かつ粒度の高いデータに基づく空間評価手法を模索していた。

    そこで無意識かつリアルタイムに情報を取得できるヘルスデバイスを装着することで生体情報を取得し、位置情報と紐づけた新たな空間的な評価手法として「GISTA (Geographic Information System Total Analysis)」と呼ばれる GIS を活用したシステムを開発した。

    課題

    同社では、環境エンジニアリングの業務の一環として建物の屋内環境をデザインしている。その際に屋内空間の快適性を評価しており、これまではオフィス空間で働く代表的な人に対してアンケート調査を実施し、1 日に数回、特定の場所での温度、明るさ、音、空気などに対する快適度(満足度)を 7 段階等で評価していた。しかしこの方法は紙で回答してもらった情報を Excel に入力するため、集計から分析、評価までに時間
    がかかるという大きな課題があった。またアンケート調査は回答者の主観的な要素が入るため、集計した結果が信頼性のあるものかどうかの判断が困難であった。

    ArcGIS 活用の経緯

    同部の伊勢田氏は 2015 年(平成 27 年)から 3 年間米国カリフォルニア州の大学に社会人留学した際に、授業で GIS(ArcGIS)に出会い、建設・不動産分野における GIS の有用性を感じていた。そして帰国後、アンケート調査に替わる新たな屋内環境評価手法として、位置情報と生体情報を連携させ、GIS に取り込むシステムの開発に着手し、名前を「GISTA」と名付けた。

    システム開発の検討段階においては無償のオープンソースも検討したが、GIS としての豊富な分析機能、多様なデータソースの取り扱い、システムの拡張性などを考慮し、GIS プラットフォームとして利用できる ArcGIS を採用した。さらに Esri社が世界的シェアを確保していることによる安心感も採用の決め手となった。

    課題解決手法

    GISTA の中に取り込むデータには、大きくわけて位置情報と生体情報の 2 種類がある。

    屋内で位置情報を取得するにはビーコンや Wi-Fi を設置する方法が知られているが、このような機器を至る所に設置するには手間と費用がかかる。そこで、より簡単に位置情報を取得することができるスマートフォンアプリを用いることにした。このアプリは海外の企業が開発したもので、GPS、地磁気、気圧などを複合的に取得し、AI で学習させることによってより高精度に位置を特定することができる。一方の生体情報の取得において、人間の集中等の正確な生理状態を評価するのに適しているのは脳波である。しかし脳波を取得するためにはヘッドバンドを付ける
    必要があり、それを長時間装着すること自体がストレスになる。そこで代替策として、脳波と比較的相関が高い「心拍」に着目した。具体的には、ヘルスデバイスを手首に装着することで心拍数と波形を計測し、得られたデータから協力企業の知見をもとに集中度、ストレス度、リラックス度、活力度などを算出した。

    そして位置情報と生体情報を統合する GIS プラットフォームとして、リアルタイム GIS 製品の ArcGIS GeoEvent Server を活用した。位置情報はほぼリアルタイムに、生体情報は 5 分に 1 回程度にまとめて送り、それらを 5 分ごとにマッチング処理することで、最終的に ArcGIS 上で空間的な集中度、ストレス度、リラックス度、活力度などを時間軸ごとに分析・可視化した。


    全体のシステム構成図

    効果

    GISTA を構築し、屋内空間の快適性をほぼリアルタイムで可視化できるようになったことで、データに基づく定量的な空間評価をすることができるようになった。また解析結果は PC だけでなくスマートフォンでも簡単に見ることができるようになった。

    GISTA のプロジェクトを立ち上げた当初は「このプロジェクトにどれだけの価値があるのか?」と社内で懐疑的な意見を持たれることもあったが、いまでは「自分たちの部署でも試してみたい」という要望があり、200 人規模での計測をすることができるようになった。

    さらに社内だけでなく、社外での学会発表や 2023 年(令和 5 年)に米国で行われた Esri ユーザー会で事例発表を行った際には、発表後に参加者から多くの質問を受けるなど、大きな反響があった。


    出力例:オフィス空間における集中度のヒートマップ

    今後の展望

    社内での計測・評価により成果を上げることができたため、今後は社外のお客様へ GISTA の提供を進めていく。「特に個人の生産性を上げたい企業や、最新技術を使って業務を改善したいと思っている企業へ提案をしていきたい」と氏は語る。

    2023 年 10 月にはプレスリリースを出し、新たな顧客の開拓を目指している。

    さらに海外への展開も視野に入れている。特に、人口の増加に伴い、建物の建設需要が見込まれる途上国では本システムを活用できる場面はますます増えていくとみている。

    最後に氏は「GISTAにはGIS+DATA+VISTA (眺望する、見る) という意味も込められている。GISTA を通じて将来自分たちが見たい世界を作る、これはまさに 2023 年の Esriユーザー会のテーマである”GIS – Creating the World You Want to See”と合致する。当社は 1970 年代米国Esri に日本国内で初めて大規模なプロジェクトを発注した企業であり、今後も GIS を活用した GISTA を通じて、誰もが快適で生産性が高く、健康的に働くことができる未来をお客様と一緒に築いていきたい」と力強く語った。



    GISTA説明動画

    https://www.youtube.com/embed/HTjfDRBBbxo