公開 5 か月で約 4,100 万アクセスを集めた国内初の
感染状況ダッシュボード

    ArcGIS プラットフォームの特徴

    感染状況の一元的な集約と公開

      課題

    • 日本国内での感染状況の可視化
    • 症例のオープンデータ化に対する問題意識

      導入効果

    • GIS の認知度向上
    • 膨大なアクセス状況下における安定したサイト運営
    • 集約公開したデータを元にした学術的研究への貢献

    概要

    新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の感染拡大が始まった 2020 年(令和 2 年)2 月以降、米ジョンズ・ホプキンス大学をはじめ海外では感染状況をモニタリングするサイトが ArcGIS プラットフォームを利用して多く立ち上がっていたが、日本国内での COVID-19 感染状況をモニタリングできるサイトは無かった。そこで、ジャッグジャパン株式会社では社内有志で ArcGIS Online と ArcGIS Dashboards を利用したダッシュボードサイト『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』を構築し、2020 年 2 月 16 日より一般向けに無償で公開を開始した。同サイトでは、厚生労働省や地方公共団体のホームページから感染者情報データを収集した CSV ファイルをホストフィーチャレイヤーとして公開し、ArcGIS Dashboards を利用して可視化している。現在では様々なモニタリングサイトがあるが、居住市区町村データを収集している点や、統計データではなくあくまで症例データとして 1 症例データ 1 行でのデータ更新を行っているのが同社公開データの特徴である。
    公開から 5 か月で約 4,100 万アクセスを集めるなど社会から高い関心が寄せられたほか、元となるデータ(CSV 形式や GeoJSON 形式)を CC BY-NC 国際 4.0 ライセンス下で公開したことで、GIS を用いた研究などの基礎データとして大学などの研究機関でも活用されるようになった。また、NHK をはじめ各種メディアで感染拡大状況の視覚化の例として取り上げられたほか、国会でも症例データ可視化の好事例として評価されるなど、注目が集まっている。

    課題

    COVID-19 は 2019 年末に中国で確認され、2020 年 1 月には日本でも症例が確認された。その後、2020 年 2 月には国内でも数 十症例が確認されていたが、国内の症例をまとめたデータサイトは当時存在せず、感染の拡がりや状況を一元的に確認できるダッシュボードサイトは存在しなかった。海外では米ジョンズ・ホプキンス大学が国別の状況を確認できるサイトを ArcGIS プラットフォームを利用して構築していたが、都道府県別や市区町村別といった情報は存在しなかった。また、厚生労働省をはじめとする行政組織の情報公開についても、当初は積極的に公開する組織が少なく、オープンデータ化されていないケースが多かった。

    ArcGIS 採用の理由

    米ジョンズ・ホプキンス大学をはじめ、先進国の保健当局などで ArcGIS 製品を使った ダッシュボードが構築されていたことから、これらのサイトの知見を生かしたダッシュボードの作成には、ArcGIS 製品を使うことが望ましいと考えた。また、更新作業をできるかぎり簡素化することや、データの可視化や地理情報としての症例情報を可視化するためには、ArcGIS Dashboards がふさわしい と考えて採用した。

    課題解決手法

    同社は、本業である選挙コンサルティング事業を通じて、自治体の公表するデータの癖(公表するタイミングや伝達方法、提供形態)を理解していたことから、それまで各々の地方公共団体によって公開されていたデータの一元化(標準化ならびに統一したフォーマット策定にかかる定義決定)を行い、定量化したデータとして収集を開始した。ArcGIS Online では、クラウドストレージサービス Dropbox との連携機能があることから、複数のクライアント環境で編集したデータファイルでも容易にホストフィーチャレイヤーとして公開することができた。また、ArcGIS Dashboards を活用したことで一切コーディング不要でダッシュボードを作成することができた。

    アクセス数は多いときで同時に約 4,000(1 日のアクセス数としては 1,000,000)アクセスがあり、データソースそのもののファイルサイズや多種多様なグラフ・表現方法によって転送量が肥大化しアクセスに時間がかかる傾向も見受けられたが、ArcGIS Online で標準搭載している CDN 機能を利用することで、特段費用をかけずにサイト自体がダウンしたり転送エラーになったりするような事態は避けることができた。
    また、ドメインとサーバーについては GMO インターネットグループの GMO ペパボ株式会社から無償提供を受け、ArcGIS Online の ライセンスについても ESRI ジャパンの「新型コロナウイルス対応支援パッケージ」を利用 した。

    効果

    同社の活動に対する一般の関心は高く、2020 年 2 月 16 日に公開してから 5 か月で、約 4,100 万アクセスが集まる国内でも有数の症例ダッシュボードとなった。COVID-19 の症例情報を可視化するにあたって ArcGIS シリーズが有用であることを国内に広めることができた。
    第 201 回国会参議院予算委員会(2020 年 3 月 25 日)において、浅田均参議院議員に COVID-19 の国内感染拡大状況を可視化した資料の例として『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』を名指しして取り上げられた。厚生労働大臣も出席する立法の現場において同社公開マップが取り上げられたことは、COVID-19 における GIS の重要性を国会の場で認識させたことに繋がったともいえる。

    また、報道機関が同社の提供するデータを利用する事例も生まれた。日本経済新聞は 2020 年 4 月 15 日に『都心部からの「疎開」「レジャー脱出」、地方は警戒』とのタイトルで記事を配信したが、この中で「都心部から地方に移動したことによる感染拡大の状況はデータからも読み取れる。コンサルティング会社、ジャッグジャパン(東京)が収集する陽性事例のデータを分析すると、4 月 11 日までに緊急事態宣言の対象の 7 都府県以外で感染が確認された人のうち、40 人は 7 都府県の居住者だった。3 月下旬までにそうした感染者は週 0 ~ 5 人だったが、3 月 29 日以降は週 15 人に上っている」と触れており、GIS を活用したデータ公開が報道に寄与した。このほか、同社の活動については NHK 総合「シブ 5 時」(2020 年 4 月 3 日放送)、GIS NEXT(第 71 号 2020 年 4 月 28 日発刊)などにも取り上げられた。

    同社の提供するデータを一次情報源として使用し、公開された学術的研究は数多く、札幌医科大学医学部、新潟大学大学院医歯学総合研究科国際保健学分野(公衆衛生)、三重大学、東京大学などの教育機関に所属する研究者が同社公開データを元にしたアウトプットを公開したほか、大濱﨑氏も 2020 年 4 月 27 日に本活動について東京大学法学政治学研究科・法学部にてゲスト講義を行った。民間においても GIS を活用して複数の企業が同社の提供するデータを一次情報源とした地理情報による可視化に取り組んでいるほか、学校教育の現場での題材としても活用されるなど地理情報を活用する事例研究のデータセットとしての活用も広がっている。これらの取り組みが評価され、2020 年度地理情報システム学会において学会賞(実践部門)を受賞した(左欄写真参照)

    都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ(2020 年 11 月 7 日時点)

    今後の展望

    2020 年 10 月時点では厚生労働省もオープンデータで COVID-19 に関する公開をはじめ、民間分野でもデータ可視化サイトが多く立ち上がるなど、本マップ公開当初に比べ状況が大きく変わり、本マップも一定の役割を果たした。今後、本マップやデータの活用をきっかけに、疫学関連での GIS 活用事例が増えることが期待される。