交通渋滞エリアの解析―移動データのアンケート収集
結果の共有を ArcGIS プラットフォームで効率化
- 膨大な交通量データの解析
- 解析結果を効率良く説明、共有
- 解析手法の確立、関係者への説明の円滑化
- 交通渋滞対策案の検討材料として活用
- インドでのビジネスの横展開
課題
導入効果
概要
名古屋電機工業株式会社は、創業 70 年以上の、道路情報板を製造する企業であり、日本初の一般電話回線を用いた道路情報板の発明や、LED のマルチカラー図形情報板および表示ロゴのデザインを手がけるなど、ドライバーが認識しやすい情報を提供する工夫を行ってきた。
新事業創発本部では、2016 年(平成 28 年)に科学技術振興機構(JST)と国際協力機構(JICA)が提案する SATREPS(地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム)の実証事業に採択され、インドのアーメダバード市の交通渋滞緩和実証プロジェクト(2017-2022 年度)に参画した。現地で取得した膨大な交通データを ArcGIS に取り込み、可視化・解析することで渋滞エリアや原因について関係者への説明が非常に円滑になった。また本研究を受け、現地での交通渋滞解消のための具体的な施策検討にも繋がった。
上記 SATREPS 案件で得たノウハウを活かし、アーメダバード市より人口が多いベンガルール都市圏に対して、同社は交通システムの導入と運用保守の大型案件を受注している。
課題
交通渋滞緩和を実証するため本プロジェクトではアーメダバード市の道路に設置した交通カメラ 30 台から車速情報・緯度経度情報を取得した。また同社が独自開発したスマホ用マルチモーダルアプリ経由で、モニター対象の市民ドライバーへ走行ルート、交通手段情報を発信し、毎秒の移動経路情報を取得した。しかし、取得した上記の膨大な交通量データをどのように可視化・解析し、関係者への説明を円滑にするかという点に課題を感じていた。
ArcGIS 採用の理由
GIS が上記の課題解決に繋がるツールだと感じ、調査を始めた。なかでも ArcGIS がさまざまな企業や研究機関で利用されており、業界標準だという点と操作性に優れている点から導入に至った。また、ユーザー事例集やユーザーカンファレンス、GIS コミュニティフォーラムでの事例講演などのコンテンツやユーザーコミュニティが充実している点も評価された。
課題解決手法
(1) ArcGIS Pro(デスクトップ GIS)の利用
数テラバイトにおよぶ交通カメラのポイントデータを ArcGIS Pro に取り込み、時間軸や場所ごとに整理する中で、交通渋滞をどのように表現すると見る人からの理解が得られやすいか、また地域ごとに表示するにはどうしたらよいか等、マップでの表現方法を試行錯誤した。
ESRIジャパン名古屋オフィスの技術者からの提案を受け、ArcGIS Spatial Analyst を導入し、内挿機能を利用することで、地域の混み具合を面的に表現した。その結果、パラメーターの変更や、時間軸でのフィルタリング・アニメーション表現、ヒートマップ表現等がマップ上で容易にでき、作業効率が格段に上がった。
また多くの機能を持つ ArcGIS Pro の活用・応用方法については、ESRIジャパンのコンサルティングサービスを利用し、豊富な GIS 知識を持つ技術者から適宜アドバイスをもらいながら、データ加工・解析を進めた。ステップごとに作成した手順書は、社内の事後レビュー等にも活用している。
(2) ArcGIS Online(クラウドGIS)の利用
同社のプロジェクトメンバー 3 名で ArcGIS Pro 上に作成したデータを ArcGIS Online 上にアップロードすることで、日本だけでなくインド出張中など、いつでもどこでも共有できるようにした。また、ArcGIS Pro で可視化・解析した渋滞エリアで、同社が独自開発したスマホアプリをモニター対象の市民ドライバーに配布し、公共交通を含むマルチモーダルな情報提供によって市民の交通行動の実態をどのように把握できるかの解析評価を行った。さらに、モニターにアンケートを実施するため、ブラウザー上でアンケートページを容易に作成できる ArcGIS Survey123 を利用し、以下に示す項目の移動データを短期間で収集することができた。
そしてこれらの回答を集計した結果を、直感的に状況把握ができるマップとグラフとともに ArcGIS Dashboards 上に統合した。マップ上で渋滞エリアを可視化するだけでなく、その中身(移動手段、性別、年代、移動目的など)を位置データと紐づけて、統計やグラフ等で表現し、1 つの画面で見せることができるため、関係者への説明や PR をする際の反響が大きかった。
効果
ArcGIS での解析結果を含む、研究成果のハンドブックを作成し、現地の市役所、インド大使館、内閣府、国土交通省などの関係者に配布した。
関係者は渋滞が日常化していることを感じてはいたが、いつどのエリアがどのように混雑しているかをこれまで明確に把握できていなかった。実際の観測データを基に GIS で可視化することで、現実の渋滞状況を容易かつ簡潔に説明できるようになり、関係者の理解が得やすくなった。また、本プロジェクトを通じてアーメダバード市の交通渋滞は違法駐車が大きな要因ということが判明したため、現地では駐車場設置などの具体的な対策案も出てきている。
今後の展望
アーメダバード市での SATREPS 案件を基に得たノウハウを活かし、同社のインドへのビジネス展開は加速している。
人口増加に伴い交通量が増加しているベンガルール都市圏に対して、同社は交通システムを受注し、2024 年度から運用の開始を予定している。
さらに、導入後の 5 年間の O&M(オペレーションアンドメンテナンス)も同社が担うことになった。このプロジェクトに関しても、GIS による交通の可視化と解析、結果を評価するツールとして ArcGIS を活用する予定である。
※ 出典:「マルチモーダル地域交通状況のセンシング、ネットワーキングとビッグデータ解析に基づくエネルギー低炭素社会実現を目指した新興国におけるスマートシティの構築」,Copyright SATREPS Project for Handbook of Multimodal Transport for SmartCity。