GPS、準天頂衛星、IMES(屋内測位)の 3 つの信号で測位

    課題

  • 開発テスト効率化
  • テスト車両を探すのにかかる時間の削減

    導入効果

  • 車両を探す時間の劇的な短縮

概要

四輪R&Dセンターでは開発中の車両のテストを行うため、車両はもちろんのこと、施設の構造や、運営の方法において多くの機密情報を持つ。そのためさまざまなテストを渡り歩くテスト車両の引き渡し時に、担当者が車両を探すのに時間がかかっていた。それを解消するため、GPS、準天頂衛星、IMES (屋内測位:Indoor MEssaging System) の 3 つの信号を受信する端末を独自開発し各車両に搭載。そこで測位した位置情報をオンプレミスの ArcGIS のマップ上に屋内外をシームレスに表示し、ユーザーがテスト車両の位置を検索できるシステムを開発し、車を探す時間が劇的に短縮された。

課題

株式会社本田技術研究所 四輪R&Dセンター 社屋四輪 R&D センター社屋

HONDA の研究開発機関である本田技術研究所。栃木県にある四輪R&Dセンターは四輪自動車の研究開発を行う施設で、テストコースと数々のテスト棟がその広大な敷地内に立ち並ぶ。R&D の名の通り、新たな車を開発するための先進リサーチと量産化に向けた設計開発を行っているが、研究所が進めている手戻りを減らし開発効率を高め先行開発から量産開発までの期間を縮めるには、テストの効率化は避けては通れない。中でも「テスト車両を探すのに時間がかかる」という問題は長年の課題であった。それは機密情報が厳守された研究開発機関ならではの事情がある。
テスト車両は衝突安全や走行性能や環境試験などさまざまな試験が行われる。それぞれが専用の建屋で専門のチームによって行われるため、テスト車両は数々の施設を渡り歩くことになる。テストを行うには前の担当者から都度テスト車両の場所をメールや電話などで聞くことになるのだが、機密保持のため建屋ごとに完全に仕切られている構造で、入室できる人も制限されている。さらに秘密を守るためテスト車には幌をかぶせてあり、毎回、大量のテスト車両の幌を一台ずつめくって探さなければならず、車両を見つけるのにとても時間を要することもあったという。

課題解決手法

テスト車の位置を可視化するためのプロジェクトが始まったのは 2014 年である。屋外の位置情報を取るためには GPS 情報を使うが、さらに測位精度を上げるため、まだ新技術であった準天頂衛星の信号の受信も取り入れることとした。屋内の測位は実験を繰り返しながら何度か方針転換があったが、最終的には IMES 技術を採用。これら 3 つの信号により、十分な精度と建物内の階数の判別も可能になった。
しかし 3 つの信号を受信し携帯電話回線でサーバーへ情報を送るための受信端末は存在しなかったため、独自開発を行った。それが S-BOX である。
試作段階では乾電池27本も必要な時期もあったが、その後テスト車のイグニッション ON 時の USB 電源供給方式に方針転換。また位置情報も、車両のエンジンの ON/OFF 時に送信、走行中は規定間隔で送信、テスト棟に入る直前に送信などのアイディアを投入し実用化を図った(濱野研究員)。

S-BOX

ArcGIS 採用の理由

S-BOX から送られてくる位置情報の可視化を担ったのが ArcGIS である。
建物情報を含め機密情報厳守のため、Google マップよりも、オンプレミスでの運用が前提条件であり、「システムを構築するには ArcGIS が最適と考えた」と濱野研究員は語る。
開発当初は屋内と屋外の表示切り替えをインタフェース上でいかに分かりやすく表現出来るかの試行錯誤だったが、建物の CAD データを取り込むことにより屋内外の地図をシームレスに画面上に表示することができ、そこにテスト車両の位置をポイントで表示した。円の大きさは位置精度誤差で可変するようにして、屋内ではフロア階数までもが表示できる仕組みにしている。
ユーザーは PC またはスマートフォンでログインし、検索ウインドウから車両番号やコード番号などさまざまな方法で検索が行える。また逆引きで、選択したエリア内のテスト車両の数も検索できる機能もあり、他のテストコースに行っている車両の数なども簡単に分かる。
管理画面からは IMES の設置位置や各種設定情報なども見ることができ、S-BOX と搭載車両とのリンク付けも管理画面から行うことができる。

効果

「テスト車両の引き渡しがスムーズになった。前の使用者が分からないときでも車両がすぐに捜索できる。」と社員からの言葉。
S-BOX はエンジン ON/OFF 時のほか、テスト棟に入ったりする際に GPS をロストした位置情報も取っている。そのため、その車の最後の位置を見ればどの建物に入っているのか、もし IMES が設置されてない場所でも容易に分かるのである。北海道や栃木のテストコースにある車両ももちろん地図上に表示される。
今回の仕組みで車を探すのにかかった時間は大幅に短縮され、開発に貢献できるシステムであることが容易に想定できる。

車両の位置を屋内屋外シームレスに地図上に表示

今後の展望

位置情報以外にデータから分かってくるのはテスト車両ごとの始動率である。よく使われる車両や、あまり使われていない車両が分かってくれば、もっとテスト車両が効率的に利用できるようになるはずである。さらにヒートマップを作成することにより、いつも車両で混んでいる場所の改善など、見えなかったものが見えてくる事による効率化への貢献が期待されている。
今回のプロジェクトは、先を見越しての準天頂衛星の採用や IoT 技術の採用、屋内外のシームレス表示の実現、そしてその導入効果の高さなど、「位置情報可視化の威力」を見事に体現した GIS プロジェクトと言えるのではないだろうか。