BEIRA – 鳥瞰型情報検索アプリケーション
ヒトの「気づき」を誘発。自動生成されるエリア要約地図。
概要
研究・開発風景
株式会社デンソーアイティーラボラトリは、トヨタ系自動車部品サプライヤーである株式会社デンソーの研究開発専門子会社である。
当社は、「ITを活用して豊かな力一ライフを創造する」ことを会社の使命とし、デンソーの実業部隊と連携しつつ、5年から15年先の車載用システムの研究開発を行っている。ターゲットはITS(Intelligent Transport System)と呼ばれる分野で、利便のための次世代カーナビ、車載システムや、安全のための画像、信号処理などを幅広く扱っている。
研究の動機
観光地などでよく見られるエリア要約地図
<信州遠山卿観光協会提出:www.tohyamago.com>
カーナビゲーションを搭載した自家用車をお持ちの方で、操作性に不満を持ったことがある方は多いのではないだろうか?
一般的にカーナビでは、カテゴリーメニューから目的地を探し、経路探索を行う仕組みである。このような検索は予め目的地が決まっている場合には適しているのだが、旅の途中に何となく面白いスポットを探したいと
いった漠然とした要求に対しては、あまり向いていない。
カーナビにおいて店舗や施設を意味するPOI(Point of Interest)は、多ければ多いほど情報が豊富ということになる。ただ、POIが多すぎると地図の見た目は煩雑になり使いにくくなるという、トレードオフの関係にある。カーナビで目的地を漠然と検索した結果、ディスプレー上がアイコンだらけになってしまったという経験をお持ちの方も多いのではないだろうか?
「カーナビを使っていてずっと気になっていることが二つありました。それは目的地の検索方法と、ナビゲーションしていないときのモニター表示についてです。目的地の検索は基本的にカテゴリーメニューから検索しますが、そのとき地図は表示されていません。カーナビは地図を表示するためのシステムという前提に立てば、検索から表示まで全ての操作を地図上で行えれば使い易いのではないかと考えました。また、カーナビの地図は複雑な経路を辿っているときにはよく見ますが、知っている道や高速道路など単調な道を走行しているときは殆ど見ないですよね。折角、地図を表示ているのですから使っていないときにでも、何か土地ごとの面白いトピックなどを表示できないかと考えていました。観光地などに行くと、エリア単位で概要が示されていて、パッと見で、わかるエリア要約地図がよくありますよね。あのようなヒトの『気づき』を誘発するような地図が、遊んでいるカーナビ、画面にでてくれば有効活用になるのではと考えました。」と増谷氏。
このような動機から、鳥瞰型型情報検索アプリケーション「BEIRA(Bird’s Eye Information Retrieval Application)」の研究がはじまった。
BEIRA
地理意味クラスタリング
BEIRAは、『エリア要約地図を自動生成する』ことを基本コンセプトに研究を開始した。BEIRAは以下の2つの要素からなる。
1. POIの内容でエリアを分割
2. 分割されたエリアをテキストで要約
エリアの分割はPOIをクラスタリングすることで行う。その際地理情報(地図上の位置)だけでクラスタリンク。すると、近い物同士をまとめるだけで、意味(POIの内容、属性)の似た物になっていない。また意味だけでクラスタリングすると今度は地理的にエリアとしてまとまらない可能性が高い。そこで双方の特性をマッシュアップさせた地理意味クラスタリングで所望のエリアが得られるのではないかと考えた。
要約はテキス卜から抽出された単語の重要度を『タグクラウド』でエリア内に表示している。より面白い単語が浮き出てくる感じである。単語の重要度は通常は単語の頻度を利用するが、さらに精度をあげるため単語の
地理的な分布も考慮した要約を考えた。例えば『定休』と『結婚』という単語は頻度の上では同等であるが、エリアの要約には、『結婚』の方が重要である。この違いを単語の地理的な分布を考慮したテキス卜の地理的要約を考案した。
現在はPOIの意味情報としてレストランに関する口コミサイトのテキスト情報を利用してエリア要約地図を生成している。地元の人の生の声が浮き出ているカーナビがあれば、確かに楽しいかもしれない。
ArcGISの利用
BEIRAシステムの構成図
ArcGIS Server版表示画面
本研究では、ArcViewとArcGIS Serverを利用している。当初はArcViewで、研究を行っていたが、現在は複数ユーザによる評価のためArcGIS Serverも用いている。
「本研究でGISを用いた理由とは、高度な描画機能と早期のプロトタイピングです。市販カーナビやWeb地図サービスを利用する手もありましたが、前者は複雑な仕様のため、後者は非力な描画機能のため使えませんでした。その双方を両立できるのがGISだったわけですが、中でもArcGISは、TINサーフェイス生成、スムージングなど豊富な描画機能を備え、ジオプロセツシングやArcGIS Serverのような柔軟な開発環境を持つので、研究にうってつけと判断しました。また、オプションのエクステンションや、世界の研究者が公開したアドオンツール群が簡単に利用できるのも他のGISツールに無い特色です。これらの様々な要素が、ArcGISの魅力ですね。」と増谷氏。
今後の展開
「BEIRAはまだまだ研究途上ですが、エリア地図自動生成という当初の目的は一応達成できたと思っています。今後は意味的にも地理的にも更に精度を上げていきたいと考えています。今はレストランの口コミサイトの情報だけを利用していますが、世の中には様々なPOI情報サイトがありますし、ナビ自体もインターネット接続のものが増えてきています。一つのサイトに限らず、様々なサイトの情報からエリア地図が自動生成できるようにしていきたいと考えています。将来的にはBEIRAがカーナビに搭載されるのが夢ですね。」と増谷氏は、将来に向けての熱い思いを語った。