社内外に散在する様々なリスク情報を地図上で統合

GISを利用した分析結果を保険の提案に積極的に織り込むことにより、他社との差別化を図る

 

共立株式会社

組織形態
共立グループの組織形態

共立株式会社は、100 年以上の歴史と 6,000 社に及ぶ法人取引先を有する、企業保険代理店である。国内 11 拠点と海外 3 拠点(上海/香港/シンガポール)に営業拠点を展開しており、2012 年 3 月 31 日現在の役職員総数はグループ全体で 252 名である。

組織形態であるが、クライアントの直接的な窓口となる営業部門を中心として、同社リスクファイナンス部及び子会社である共立リスクマネジメント株式会社が、より専門的な立場から営業部門をバックアップする体制をとっている。

導入の経緯

共立株式会社では、2011 年 12 月より GIS を本格的に導入、利用を開始した。導入の背景には、クライアントに対する提案の付加価値を高めたいという、営業現場からの強い要望がある。昨今、損害保険業界の統合・再編が急速に進んでおり、メーカーである保険会社の絶対数が減少の一途を辿っている。その結果、現在の市場環境では「① 保険会社の競争入札⇒ ② 保険料コストの削減⇒ ③ 新規成約」という旧来のビジネスモデルに限界が見え始めている。

価格依存型のビジネスから脱却する為には、クライアントに提供するサービスの高付加価値化が肝要であるが、今回の GIS 導入もこの高付加価値化を推進する為の不可欠な先行投資であると認識している。そもそも、保険業界においては、かなり以前から、リスク管理ツールとして GIS が活用されてきた。外資系企業を中心に同業他社では既に導入していると認識しており、今回の導入は決して時期尚早ではないと考えている。

 

利用用途

代表的な被害台風の軌跡(2003年-2011年)
代表的な被害台風の軌跡(2003年-2011年)

今般導入した ArcGIS は、現在のところ専ら保険設計の為の分析やプレゼン資料作成に活用されている。

現在日本で販売されている財物保険は、火災・爆発のような人的リスクから台風や地震といった自然災害リスクまで幅広くカバーするタイプのものが一般的であるが、とりわけ自然災害リスクについては、クライアントの所有物件の地理的分布が保険設計上重要なファクターと成り得る。地震リスクを例にとると、地盤状況、主要活断層の有無、沿岸からの距離等、日本の中でも場所によってリスクの大きさにかなりバラツキがあり、それ故手配するべき保険の中身もリスクに合わせて変える必要があるからである。

クライアントの業種によっては、例えば小売チェーン店のように、所有物件が広域に亘って多店舗展開しているケースが有り得る。通常、クライアントの所有物件の情報は「保険目的明細」という名前の一覧表で一元管理されるが、これに記載された住所の一覧からは、実際にどの場所にいくらの固定資産がどの程度集積しているのか(リスク・エクスポージャーと呼ぶ)を把握することは極めて困難である。損害保険では「〇〇工場での爆発事故」や「台風△△号」のような単独の事故・事象によって、クライアントの固定資産が幾ら位の損害を一度に被るのかといった観点からの分析が重要となるが、台風や地震のような広域災害の場合には、複数の物件が同時に被災する可能性が高い。したがって、広域に多店舗展開しているようなクライアントに対して最適な保険を提案する為には、GIS を使った分析が非常に有用であると言える。

導入効果

北関東直下型地震における震度分布
北関東直下型地震における震度分布

目に見える効果としては、提案資料に GIS のアウトプットを盛り込むことにより、保険商品の説明がより具体的になったということがある。

例えば、従来はただ単に「地震保険どうですか?」という商品主体型の説明であったものが、右上図にあるようなアウトプットを用いることで「例えば北関東直下型の地震が発生した場合、貴社では最大でこのような被害が想定されますが・・・。」のような話し方ができるようになった。保険営業は、リスクに対するクライアントの具体的なニーズを喚起することが非常に重要であり、その意味で「リスクの可視化」ができる地図の存在は非常に大きい。実際、GIS を使った提案資料を用いることで、クライアントの興味・関心を引き出すことができたという営業現場からの声は多く、GIS の導入は、共立グループのプレゼンスを確実に高めたと認識している。

今後の展望

共立役職員の居住地分布(BCP策定で使用
共立役職員の居住地分布(BCP策定で使用

共立グループ内における GIS の認知度向上に伴い、営業現場を中心に、GIS を使った分析や提案へのニーズは確実に高まっている。また、営業活動以外の面においては、例えば BCP 策定における帰宅困難者対策等の社内的な意思決定でも使われることがあり、今後ますます活用機会は増えると考えられる。

共立グループでは、GIS を導入してから 1 年足らずと日が浅いこともあり、現段階においては基本的な描画・演算機能の使用に留まっている。また、現在 ArcGIS を日常的に使用している担当者が限られる為、活用範囲には自ずから限界がある。今後、GIS を使ってより高度な分析を行えるよう、担当者のスキルアップを図ると同時に、グループ全体における GIS 活用の裾野を広げる必要があると考えている。