ブランドのグローバル展開を支える店舗開発
BA Web で海外の地域特性を分析

      課題

    • 海外店舗開発に対応可能な GIS ソフトがない
    • 在宅勤務下で利用できるサービス形態の模索

      導入効果

    • 海外店舗開発における売上予測モデルの開発

    概要

    株式会社トリドールホールディングスは、本格讃岐釜揚げうどんを提供する丸亀製麺を中心とした約 20 種類のブランドの飲食店を国内に約 1,100 店舗、国外に約 650 店舗を展開している(2022 年(令和 4 年)10 月時点)。店舗の形態は、ロードサイド型やショッピングモール、テナントなど地域の生活スタイルに合わせ出店している。


    米国 MARUGAME UDON
    LOS ANGELES SAWTELLE店

    「食の感動で、この星を満たせ。」を掲げ、2028 年(令和 10 年) 3 月までに 5,500 店舗以上の展開を目指し、国内外で店舗の開発を進めている。

    開発戦略部マーケットリサーチ課では、国内外の出店候補エリアの抽出から、店舗ごとの売上予測、さらには地域の特性にあわせた売上予測モデルの開発など、出店に関わる分析を行っている。

    マーケットリサーチ課では、2021 年(令和 3 年)に海外店舗の分析を行うにあたり、ArcGIS Business Analyst Web(以下、BA Web)と海外の POI データを導入し、米国における店舗開発に関する分析環境と独自の売上予測モデルを構築した。

    課題

    丸亀製麺は、2008 年(平成 20 年)から国内での出店数を増やしたが、2014 年(平成 26 年)頃からエリアが近い店舗間で自社競合が見られるようになり、店舗開発において戦略の見直しを図った。

    また、2020 年(令和 2 年)からの新型コロナウイルス感染症の流行によって、それまで好調だったオフィス街店舗で売上が減少するなど、ライフスタイルの大幅な変化により、国内向けの出店戦略や、それに伴う各種分析モデルの見直しが行われた。このような大幅な出店戦略の見直しを繰り返し経験してきたことで、同課には、国内の店舗出店における分析ノウハウが蓄積された。

    一方、海外展開においては、2011 年(平成 23 年)に丸亀製麺のハワイ店「MARUGAMEUDON WAIKIKI」を 1 号店として海外出店が始まり、現在ではアジア、米国、欧州を中心に店舗数を増やしている。海外の店舗開発は、現地の合同会社が行っていたが、同課の分析ノウハウを活かし海外出店をサポートすることになった。


    店舗分析の様子

    国内で構築したモデルを基に、海外でも分析できる環境と分析モデルの構築を始めた。

    しかし、いざ分析を行おうとすると、同課で利用していた GIS アプリは、国内のデータ分析にのみ対応していたため、海外向けに使用できるものがなかった。また、コロナ禍で一般的となった在宅勤務の際にも利用しやすいように、従来のスタンドアロンアプリではなく、Web ブラウザーで利用できることも求められた。

    ArcGIS 採用の理由

    同課は 2021 年夏から海外の店舗分析ツールについて調査を開始した。その中で、グローバルに展開をしている ArcGIS 製品に注目し、詳しく調べた。ArcGIS の中には、多くの国の統計データが利用でき、商圏分析に関わるツールが豊富で、かつ Web ベースで利用することができる BA Web があることを知り、さっそくトライアルを開始した。トライアルをしていく中で、BA Web は地域を限定せずとも、1 つの GIS アプリ上で各国の統計データを取得できる点が今後の業務の上でも活用の可能性が高く、非常に魅力を感じた。また、簡単な操作で作成した商圏内の統計データを基礎データとして取得でき、他の分析にも利用できる点も高評価であった。さらに、米国での店舗分析を進めていく中で、競合店のデータを分析するために米国内の店舗情報を持つ POI データも追加で使用することにした。

    課題解決手法

    各種データの取り込み

    海外店舗での売上予測モデルの構築にあたり、国内店舗の予測モデルでも使用している指標を参考にした。

    人口、世帯数、年収をはじめとした最新の基本統計データは、BA Web に標準で搭載されており、すぐに利用できた。その中には、日本では使用しない人種や言語などといった米国ならではの情報もあった。さらに、競合店の情報となる POI データも BA Web に取り込み、自店舗周辺の状況を確認できるようになった。

    店舗開発モデルの構築

    BA Web で取り込んだ各種データと既存店舗の情報をマッピングし、そこから既存店を中心に運転時間商圏を作成し、その商圏内にある各種データを抽出した。そのデータと既存店の売り上げの比較を繰り返しながら、関連性の高い指標を導き出し、海外店舗に適した予測モデルを構築していった。その中でこれまで感覚的に把握していたアジア系人口の多さが、売り上げにどれだけ寄与しているのかを定量的に把握できるようになった。

    また、この予測モデルを基に、BA Web の適合性解析の機能を使用し、エリア内に複数ある出店候補地の比較を簡単に行えるようになった。

    データの活用以外にも、店舗周辺の現地視察の結果も予測モデルの構築に用いた。

    効果

    この取り組みにより、国内での店舗開発のノウハウを基に、海外においても信頼性の高い店舗開発モデルを構築できた。

    既存店舗においては、その商圏の状況を数値で把握できるようになり、新規の店舗開発においては、現地の支援企業が提案する候補地の評価や売上予測を行い、より適切な店舗開発の判断ができるようになった。

    また、統計データを地図上で見ることで、売上に関連する日本人の多い地域を把握できた。

    さらに、部内でも GIS を活用することで、地域ごとのデータを集められることの認知が高まり、さまざまな分析の依頼が届くようになった。

    今後の展望

    同課は、出店目標である 2025 年(令和 7 年) 3 月に 2,500 店舗、2028 年 3 月に 5,500 店舗へ向けて、各国の統計データがすぐに利用できる BA Web で米国以外の国での分析も進めている。

    店舗開発モデルとしては、国内と比較すると、海外での店舗数が少ないことから今後さらなるモデルの精度向上を目指している。そのためには、国内の予測モデルで使用している交通量や人流データなど、海外では取得が難しいものや、データを取得できる店舗数の少なさを補うため、現地での分析に有効な情報の追加を検討している。

    BA Web においては、出店余地を探す機能など、さらに活用できる機能を評価し、候補地検索の作業効率化に取り組むことも視野にいれていく。


    店舗を中心とした商圏


    候補地の適合性解析の結果