ニュースデータを地図上に見える化しオンラインで配信
オランダのオンラインメディア放送局では、Esri社のテクノロジーを活用して地図上にニュース情報を見える化する取り組みが進んでいる。データを地図に表示することで、出来事や問題点を視聴者に分かりやすく伝えることにつながっている。
Esri Netherlandは、ラジオ番組とオンラインニュースを配信するBNR ニュースラジオと協力し、経済、政治、スポーツ、テクノロジーといったニュースデータの分析、見える化を行い、地図としてBNR ニュースラジオ Webサイト上に掲載している。今までに、オランダ州議会議員選挙、欧州議会選挙、エボラ出血熱、国内で大流行した鳥インフルエンザ、2014年のワールドカップブラジル大会に関するデータを地図に掲載している。Esri Netherlandのスタッフは、ラジオ番組で地図から読み取れる事柄の解説を行う。
Esri NetherlandのコミュニケーションのスペシャリストであるHarmen van Doorn氏は、視聴者向け情報発信手段として、地図を活用することの有用性が国内メディアに理解されつつあると分析する。特に、ジャーナリストにとっては、地図の力を大いに活用できる機会を得たといえる。ArcGISプラットフォームを使うことで、ニュース内容を学び、掘り下げ、また関連する生データを閲覧できるからだ。
視聴者の反応も良く、多くが地図に興味を持っているとBNR ニュースラジオのWeb編集者であるThijs Baas氏は言う。「地図の活用は、国内ニュースを今まで以上に意味あるものにし、様々な疑問の答えを導くために役に立つ。例えば、選挙結果は自分たちや地域に何をもたらすかといったことだ。人はイメージの方が物事をとらえやすい。私たちはWebサイトに掲載する地図に統計データを盛り込み、イメージとして認識できるようにしている。国内のニュースが地域社会に与える影響を見ることができる地図を掲載することで、ニュースの重要性が増すのだ」
選挙速報を地図で配信
オランダでは州議会議員選挙が2015年3月15日に実施された。選挙期間中、ArcGISで作成された選挙関連の地図を100万人の視聴者が閲覧したとされている。選挙関連の地図は、BNR ニュースラジオをはじめ、日刊紙やテレビ局など多くのメディアのWebサイトに掲載された。2011年の選挙の投票率と比較したものや、政党に関する各州の得票の増減を地図上に表し、速報値をリアルタイムにアップデートしたメディアもあった。
BNR ニュースラジオは、投票日の夜と翌朝に同局のWebサイトに選挙関連の地図を掲載し、ラジオ番組内でvan Doorn氏が、労働党の敗北、キリスト教民主勢力や民主66が得票数を伸ばした選挙の特徴について地図から読みとれる事柄を解説した。
また、Esri Netherlandは、事前にメディア向けに選挙速報値を閲覧できるダッシュボードを提供し、投票日当日にOperations Dashboard for ArcGISを使い開票が終わった自治体数、各政党の議席獲得数、投票率の速報値を配信。各メディアがダッシュボードを通して閲覧できるようにしていた。
ダッシュボードには、チャート(グラフ)やゲージ(計測メーター)ウィジェットが含まれている。ゲージはいくつの自治体から開票結果が報告されているか表し、棒グラフではどの政党が議席数を獲得したか表している。別のウィジェットは、投票率を表している。
ダッシュボードには、チャート(グラフ)やゲージ(計測メーター)ウィジェットが含まれている。ゲージはいくつの自治体から開票結果が報告されているか表し、棒グラフではどの政党が議席数を獲得したか表している。別のウィジェットは、投票率を表している。
選挙結果から有権者の動向を読み解く
選挙終了後、Esri Netherlandは、フローニンゲン州で多発しているガス採掘が原因とされる地震が選挙結果にどのように影響したか地理的分析を実施した。ここ数年、地震発生回数は増加傾向にある。有権者は、政府をはじめフローニンゲン州での支持率が高かった労働党への反感を強めており、同州で多くの議席を失うことになった。
また別の傾向として見て取れたのが、キリスト教保守派が多く住む中部「バイブル・ベルト(聖書地帯)」と呼ばれる一帯に住む人々の投票率が他と比べて高かったことである。地図からは、キリスト教連合(CU)と政治専門オランダ改革派プロテスタント党(SGP)の2政党がこの一帯で支持を伸ばしたことがわかった。
このように地理的分析は、国内政治において何が起こっているのか興味深い事実を浮き彫りにするのだ。
進む地図活用
選挙以外のトピックでの地図活用も進む。BNR ニュースラジオとEsri Netherlandは、スピード違反で検挙される可能性の高い国内の幹線道路を地図にして提供している。地図は、ドライバーがクラウドソーシングのアプリ「Flitsmeister」から報告してきたスピード違反摘発装置(違反者のナンバープレートや車体を記録するカメラ)が設置されている場所をもとに作成されている。ArcGIS Onlineのストーリー マップジャーナルテンプレートで作成されたこの地図は、カメラの設置が多い幹線道路、ドライバーが注意を払うべきルートを表示している。
また、BNR ニュースラジオとEsri Netherlandは、天気予報と地震速報に関するデータの可視化プロジェクトも進めている。
データ活用と共有に立ちはだかる壁様々なニュースデータを地図で見える化する取り組みが進む中で、課題も浮き彫りになってきている。BNRの編集長であるSjors Frohlich氏は、「地理的な視点を持つことは、社会の利益となる」と述べる一方、データの活用や共有の難しさも指摘する。データ公開は、オランダで重要視されるプライバシーポリシーに抵触するからだ。「データは事実を明確にし、時には必要な行動や処置を政府に促すことができる。データ公開は社会のプラスになる。そして私たちメディアは、データを可視化し深堀していくことで、有益な仕事をすることができる」とデータの活用と共有の意義を提起している。