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主に農業の拡大・強化により草原が消失したため、草原性鳥類は北米の鳥の中で最も危険にさらされる生物種の 1 つとなった。これらの鳥たちの一年を通した移動と、彼らの非繁殖時の滞在場所に関する基本的な情報を得ることで、保全活動が促進され、個体数の回復を妨げる要因を年間サイクルを通して特定することができる。
この物語では、2 種の鳥が繁殖地を離れ南へ向かった後の生活についての新たな事実が明らかになる。

世界を飛び回る個々の鳥をどのように追跡するのか。NPO 法人バーモントセンターフォーエコスタディーズ(生態学に関する研究施設)は、国防総省のレガシーリソース管理プログラムの支援を受け、2015 年と 2016 年に 7 つの軍事施設周辺の草原でイナゴヒメドリとマキバシギという 2 種の鳥を捕獲し、数百羽の背中にジオロケーターと呼ばれる小型の追跡装置を取り付けた。


鳥の体重の 3% 以下の極小ジオロケーターを装着する

イナゴヒメドリには、毎分ごとに日光レベルを記録する極小のジオロケーターを背負わせた。1 年後、この鳥を再び捕まえ、データをダウンロードし、それらの光レベルを経度と緯度の推定値に変換する。現在の GPS タグは重すぎて、小さな鳥には持ち運べないため、手間はかかってもこのような方法を取らざるを得ないのだ。
1 年後、無事にジオロケーターを回収し、イナゴヒメドリのルートを分析した。この種は繁殖期以外あまり姿を見せず、その移動パターンについては今までほとんど知られていなかった。
生物学者達はイナゴヒメドリが繁殖地を去るのは 8 月だと考えていた。姿を消し、鳴き声も聞かれなくなるのが 8 月だからだ。しかし分析の結果、越冬地へ向け飛び立ったのはそれよりもずっと後の 10 月上旬だっことがわかり、繁殖地におけるこの種の生息地管理の期間を、今までよりもかなり延長する必要があることが明らかになった。


イナゴヒメドリは年間 2,600 マイル(4,100 キロ)も旅をする


34 羽のイナゴヒメドリの渡り状況。それぞれの繁殖地ごとに色分けしている

次に、半球横断の旅に出るマキバシギを追う。食虫性のマキバシギは、北アメリカの広大な草原で繁殖し、残りの年を南アメリカで過ごす。イナゴヒメドリに比べ、マキバシギは長距離を一気に飛行できる。
繁殖期直前の 5 月、研究者たちは警戒の薄まる夜にメスのマキバシギを慎重に捕らえ、ソーラー駆動のジオロケーターを取り付けて放した。マキバシギはイナゴヒメドリのほぼ 10 倍(170 g)の体重があり、より大きなジオロケーターを支障なく持ち運ぶことが可能だ。このジオロケーターは太陽電池パネルを搭載しており、衛星システムと毎日通信する。衛星システムは受信と同時に推定位置情報を e メールで地上へと送信するのだ。


太陽電池パネル搭載のジオロケーターを装着したマキバシギ

3 か月後の 8 月 22 日、この個体が南に向かっているという通知メールを受け取った。


南へ向かうマキバシギの飛行ルート

その後の追跡の結果、この鳥はケープコッドからベネズエラまで、4 日間ノンストップで海の上を飛行したことが判明した。8 月 27 日にベネズエラに着陸した後、飲まず食わずの旅で痩せた体を回復させるため、約 1 か月間ベネズエラに滞在し、9 月 24 日にさらに南へと飛んだ。
ベネズエラを飛び立ったとき、研究者達はその行先を予測していた。冬の間にアルゼンチンとウルグアイの草地で過ごすマキバシギについての数十年間分の記録があったからだ。しかし、この個体が越冬したのは、アルゼンチンでも草原でもなく、昆虫や無脊椎動物などの食物が豊富なアマゾン川の氾濫原周辺だったのだ。これは、この地域でマキバシギが越冬した最初の明確な証拠であり、アマゾン川沿いで記録されたのは初めてだった。
川沿いで暮らして 4 か月後、マキバシギは 2 月上旬にマサチューセッツに戻る北行きの旅を始めた。帰りのルート(赤い線)は、行きと著しく異なり、北米大陸寄りの経路をたどった。その後、この個体は 4 月 29 日までにケープコッドに戻った。


行きと帰りでは飛行ルートが全く異なった

秋とは違う西側のルートを通ったのはなぜだろう?
通常の天候パターンは秋と春で異なり、「抵抗が最も少ない通り道」を形成する可能性がある。この春の特定の気象現象も、この鳥のルート選択に影響を与えた可能性がある。
私たちは次の繁殖期と秋の渡りの間も同じ個体の追跡を続けた。ブラジルはこの個体にとって一度きりの滞在場所で、最終的には他のマキバシギのようにアルゼンチンに到達するのか?
翌年、この個体は再び大西洋を通りベネズエラまで南下し、ブラジルのアマゾン川の同じ流域に到着した。
他の個体も同様に追跡を行った。こうした複数の個体の移動ルート情報は、この種の年次活動範囲マップの更新、および国際的な保全活動に活用されることとなる。

イナゴヒメドリとマキバシギの個体別の年間移動コースが完成したおかげで、これら 2 つの種に関する知識が劇的に広がった。北部のイナゴヒメドリの個体群は、以前考えられていたよりも 1 ~ 2 ヶ月遅れて南へ移動し、中西部と東部の個体群は、非繁殖地では行動範囲が重ならないことがわかった。また、すべてのマキバシギがアルゼンチンとウルグアイで越冬するわけではなく、アマゾン川に冬の生息地を求めるものもいる、ということがわかった。現在追跡中の他の個体により、今後さらに多くの情報が追加されるだろう。
これらの新しいデータにより、渡り鳥の管理が大陸や半球といった大きな規模でなされなければならないことがわかった。
これは、2 種の鳥についての最初の研究であり、始まりに過ぎない。将来的な技術の進歩で、さらに多くの知識のギャップが埋まり、これらの種を保護しようとする際に、ライフサイクルのすべての部分をつなげるのに役立つのは間違いない。

 

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