はじめに
近年、日本では大雪による物流の混乱が毎年のように発生しています。例えば、2025 年 1 月には日本海側を中心に大雪が発生し、宅配各社で集荷・配達に大幅な遅延が発生しました。青森や北海道では荷物の届け遅れが顕著となり、高速道路の通行止めが物流全体に影響を及ぼしました。
また、2024 年 2 月には関東や信越で物流大手が荷物の預かり停止や遅延対応を実施し、営業所での一時保管が広範囲に行われました。
こうした事例は、雪による物流リスクが現実の問題であることを示しています。対応を後手に回すと供給網の深刻な停滞につながるため、事前のリスク把握と対策が不可欠です。
2025 年 12 月、ESRI ジャパンが提供する「気象オンラインサービス(ゲヒルン版)」に雪情報レイヤーが追加されました。解析積雪深と 1 時間降雪量を5km メッシュで約 1 時間ごとに更新し、過去 6 時間分のタイムスライダー表示にも対応しています。
これは、物流・サプライチェーン業界にとって、気象リスクを可視化・分析する大きな転機です。
本記事では、雪情報と GIS を組み合わせた活用方法と、実務に直結する応用シナリオを紹介します。
雪情報レイヤーの概要
雪情報レイヤーの詳細については、ArcGIS ブログ 「雪害リスクに備える!気象オンラインサービス (ゲヒルン版)に雪情報を追加」も併せてご確認ください。
- 解析積雪深: 5km メッシュ単位の平均積雪深
- 1 時間降雪量: 5km メッシュ単位での 1 時間降雪深
- 更新頻度:約 1 時間ごと
- 表示機能:最新時刻+過去 6 時間の履歴をタイムスライダーで確認可能

サプライチェーン・物流における活用シナリオ
・ルート最適化・配送計画
積雪深・降雪状況をリアルタイムで把握し、通行止めや渋滞リスクのある区間を回避。安全かつ効率的な配送ルートを動的に再計画できます。
さらに、積雪予測を活用して翌日の配送ルートを事前に調整することで、遅延リスクを最小化できます。
・拠点配置と稼働調整
降雪の強い地域を中心に、拠点の立地適性を評価。積雪深に応じた出荷・入庫計画の調整が可能です。
例えば、積雪が予想される地域では一時的に在庫を増やし、別拠点からの補完輸送を計画することで供給網の安定性を確保します。
・BCP(事業継続計画)の強化
大雪リスクを前提に、代替輸送網や緊急配送品の準備を最適化。鉄道や海運へのシフトも検討できます。
さらに、雪情報を活用して「どの地域でどの程度の遅延が発生するか」を予測し、事前に顧客やパートナーへ通知することで、信頼性を高めます。
・品質管理・滞留検知
冷凍・冷蔵物流では、配送遅延が品質劣化に直結。積雪深情報から遅延時間を推定し、保冷時間や温度管理を見直せます。
加えて、滞留リスクの高いエリアを特定し、代替ルートや追加車両の投入を計画することで、品質維持を徹底します。
・コスト最適化とリソース配分
雪による遅延や迂回は輸送コストを押し上げます。GIS で積雪情報を分析し、最も効率的なルートや輸送手段を選択することで、追加コストを抑制できます。
また、ドライバーや車両の稼働計画を積雪リスクに応じて動的に調整することで、リソースの最適配分が可能です。




実装ステップ: ArcGIS での活用方法
- レイヤー追加:ArcGIS Online で雪情報レイヤーを取得し、Web マップや ArcGIS Pro に追加。
- 自社データとの重ね合わせ:配送センター、ルート、顧客地点を雪マップと統合。
- 分析・可視化:リスクゾーン抽出、ダッシュボードでリアルタイム監視。
- アラート設定:積雪や降雪量が閾値を超えた場合、Teams や メールで通知。

まとめ
雪情報レイヤーの追加により、GIS を活用した冬季物流戦略は新たなステージへ。
これまで後手に回りがちだった雪害対応を、事前予測と地理情報分析で計画的に進めることが可能になります。今後は、気温・路面凍結・風速など複数の気象要素を統合し、 AI による予測モデルと組み合わせることで、より精度の高いリスクマネジメントが期待されます。さらに、ダッシュボードや自動通知を活用したリアルタイム運用により、現場判断のスピードと質を大幅に向上できます。
雪情報 × GISで、冬季の物流変動に強いサプライチェーンを構築する – 今こそ、その第一歩を踏み出す時です。









