国勢調査は 5 年ごとに実施され、調査年から世間に公表されるまで数年を要します。データの信頼性は高いと言えますが、フレッシュな状態ではないので、新興住宅地や都心部の再開発地など発展の目覚ましいところでは、調査された年とそれから数年後の状態では異なった状態である可能性が出てきます。一方で携帯やスマートフォンの普及などで数十年前では想像できなかった新たなデータが登場し、国勢調査ではできない新たなデータの可能性が高まってきています。

□ 動態データの種類

動態データとは一般的に人口動態を指しています。ある一定期間内の人口変動をいい、広義には出生や死亡、流入や流出をさしますが、結婚、離婚、死産などを含めた人口動態統計の側面があったり、また、任意のエリアの一定時間内の人口変動を意味する場合は人口動態データという呼び方をしたりします。

携帯が普及しはじめた 2000 年前後は、通信事業者の基地局と携帯との通信状況を元にした任意のエリアの推計によるエリアの人口数を算出する手法が研究開発されていました。携帯に GPS も搭載されていましたが、一般的なサービスよりは災害や事件などの緊急性の高い場面での利用が主な利用用途でした。
スマートフォンが普及しはじめた 2010 年代は、通信事業者だけでなくスマートフォンというプラットフォーム上でサービスを展開する事業者(※ここでは位置情報プラットフォーム事業者と呼ぶ)が台頭してきました。スマートフォンのアプリケーション上で、ユーザーの同意を得られれば GPS データを取得したうえで、ユーザーの利益につながるサービスを提供するといったビジネスが生まれてきたことが大きいと思われます。
ただし、GPS では屋外の測位には強い反面、天空が覆われた屋内では位置自体の計測が困難な側面がありました。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が考案した屋内測位技術の一つで Indoor MEssaging System(IMES)と言われる屋内 GPS の送信機がありますが、機器自体が高価ですので、コストダウンがない限りはエリアマーケティングの分野での活用は難しいです。

ある店舗の導線把握といった要件で利用する技術として出てきているのが、ビーコン、Wifi、カメラなどを利用した店内の導線把握、混雑度把握などです。

動態データの元

ビーコン(Beacon)とは、低消費電力の近距離無線技術「Bluetooth Low Energy」(BLE)を利用した新しい位置特定技術、また、その技術を利用したデバイスのことを言います。ビーコンは、信号を半径数十メートル範囲に発信する発信機です。ビーコンは、端末の Bluetooth 機能をオンにしている状態で専用アプリをインストールしていれば、建物の中や地下でも受信できるようになっています。ただし、発信機側の距離の判定精度を上げるためにはキャリブレーションという設定は必要となったり、電池式の場合は設置自体が手軽にできるのですが電池交換といった機器のメンテンナンスが課題になったりします。

最近人流解析の分野で研究が進んでいるのは Wifi による動態把握です。ビーコンと違って専用アプリは必要なく、Wifi をオンにしているスマートフォンを持っている人の位置情報を把握することができます。機器も Wifi といった一般的に利用されているデバイスを利用しているので比較的安価です。ただし、位置情報を正確に把握する目的の場合 Wifi とスマートフォンの距離を把握するためには 3 点以上の Wifi 機器データが必要になってきます。ビーコンより電波の届く範囲が広範囲で方向もないため、3 点からの距離で人の位置が決まってきます。Wifi の生データがそのまま活用できるのではなく、そこからある程度データを使って計算していく工程が発生します。

人流解析のイメージ)

顧客の流れを可視化しショッピングモール内店舗スペースの賃料を決定

カメラによる人流解析も研究が進んでいる分野です。特定地点の人の混雑具合を画像により人のおおよその人数把握が可能です。人側に特定のデバイスのあるなしに関わらず人数把握ができるのがカメラの利点です。この原稿を書いている時点の情報では、カメラによる人の位置や座標への数値化する技術までは見当たらなかったので、スポット地点での混雑把握といった用途に最適なようです。

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