「場所」から顧客を理解するジオマーケティング

ジオマーケティングは、古くからある「地理的マーケティング」の概念だが、ビッグデータやIoTの時代に再び注目を集めている。スマートフォンの普及で位置情報を使った消費者とのコミュニケーションが可能になり、これが再評価を後押しした。例えば商業施設を持つ電鉄各社では、AI(人工知能)を用いた先進的なジオマーケティングが試みられている。

「ジオマーケティング」とは、ビッグデータ、IoT、AI(人工知能)時代に再び注目されるようになったマーケティング概念で「地理的マーケティング」のことをいう。このような概念は古くからあり、エリアマーケティング、位置情報マーケティング、商圏調査などさまざまな呼び名はあるが、利活用できる地理情報の爆発的増加や、消費者とのコミュニケーション技術の発展で、今、再び注目されるようになった。
その背景には、地図データ、統計データなど位置情報と結び付いたオープンデータが容易に入手でき、かつマネジメントから現場まで意思決定に役立てることができる環境が整ったことが大きい。またスマートフォンなど、位置情報が取得できるデバイスの普及に伴い、消費活動を場所と結び付けてモニタリングし、消費行動への働きかけが可能になったことも地理的市場理解を再評価する動きにつながっている。特に、位置情報をトリガーにしたキャンペーンなど消費者とのコミュニケーション手法の多様化が、ジオマーケティングの可能性を後押ししている。

ジオマーケティングの背後にはテクノロジーの進化がある

図 1 ジオデモマップ(国勢調査(2010 年)を基に居住者のライフスタイル・ライフステージで地域を区分した地図の例(geodemo.jp))

リアルの店舗を運営する小売業、ショッピングセンターなどの商業不動産を開発・運営する業界においては、場所に依存しないEC(電子商取引)と差異化するために、立地などの「地理的」個性を重視したマーケティングに注力し始めている。このような流れは、町づくり、観光分野にも広がりを見せている。

「場」と顧客体験の再評価

ジオマーケティングの発展は、流通業界のテクノロジーの変遷から読み解くことができる。マクドナルドをはじめとするチェーンストアオペレーションが発展したのは、1950 年代の第一次流通革命で、それは「組織化」の革命といわれている。よくトレーニングされたヒトによって均質なモノとサービスをスピーディーに、かつ広範囲に届けることが可能となった。顧客の分布は地理的空白地帯を埋めるための重要な指標であり、壁に貼った紙地図上にピンを立てて顧客分布が把握された。

1980 年代になると POS(販売時点情報管理)レジシステムが普及し、リアルタイムで売り上げを把握することができるようになった。この第二次流通革命では売れ筋、死に筋などの商品単位の管理が可能となり、それは「情報化」の革命といわれている。大型商業施設が郊外に増え、巨大な売り場に大量のモノを陳列することによって差異化が図られ、性別、年齢、買物頻度・金額が消費者を理解する指標となった。壁のピンマップは、コンピューターの画面に置き換わり、地理情報システム(GIS)を使って商圏分析が盛んに行われた。

2010 年以降になると EC とスマートフォンの普及により、消費行動とコミュニケーションの多様化が一気に進展した。このため、従前のマーケティング手法では、適切な場所とタイミングでサービス・商品・情報などの「顧客体験」を提供することが困難となったことから、地理的因子である居住地、近接性、同時性としての「場」が再評価されるようになった。JR各社をはじめ商業施設を所有する電鉄各社では、沿線の顧客体験価値向上のために、AI 技術を用いた先進的なジオマーケティングが試みられている。

図 2 流通革命とジオマーケティングが提供してきた価値の変遷
注:「生活者視点で変わる小売業の未来 希望が買う気を呼び起こす商圏マネジメントの重要性」 上田隆穂著(宣伝会議)を基に、ジオマーケティングで作成

『ジオマーケティング戦略 -ポスト「マス」時代の消費者分析-』
酒井嘉昭著
幻冬舎 800 円
消費者景観を生態的視点で把握し、マーケティングに生かすジオマーケティングの考え方を紹介した入門書。地理情報を需要予測や消費者行動プロファイルにどのように応用したか。カード会社、カーディーラー、電鉄会社、大型商業施設の日本国内事例を掲載している。
※「最新マーケティングの教科書 2018」(2017 年 12 月 14 日発行)の記事を再構成